無痛分娩で母が死亡するのはなぜか?!

分娩は痛いもの、と思っている世代からすると、無痛分娩の広がりは驚きです。「痛い思いをしてあなたを生んだ」と子供に言わなくなっているのかもしれません。出産に伴って、陣痛の辛い思いや、分娩時の局所の痛みを軽減する目的で開発されてきたのが無痛分娩です。 欧米では日本以上に当たり前のものになっているので、今後さらに広がる予感がしますが、一方、無痛分娩で幸せなはずの分娩中に妊婦や子供が亡くなる事故が出てきています。

 無痛分娩といってもその方法は複数あり、痛みを軽減する程度のものから、ほとんど局所の痛みを感じないものまであります。ただ、そのメカニズムはいずれの方法でもシンプルです。「麻酔薬を局所だけに効くように、局所を支配する神経に向けて投与する」これだけです。

 麻酔薬を投与するとき、神経がどこを走っているのかは表面からは見えません。そのため、身体の色々な部分から、「おそらくこの辺りを神経が走っているはずだろう」と思いながら目安を付けて麻酔薬を注射します。

 注意が必要なのは、表面から見えない所に走っている静脈や動脈などの血管です。血管内に麻酔薬が急激に入ると、局所麻酔中毒の状態になり、呼吸が止まったり、心臓が止まったりする状態に至ることもあります。多くの場合は、たとえ血管内に麻酔薬が入ったとしても、患者さんの様子がおかしいことで気づきます。呼吸が苦しくなるほどの状態になれば、マスク換気や、気管挿管をして麻酔薬の効果が切れるまで待てば、問題ありません。

 ここまで説明すると、なぜ無痛分娩で妊婦が死亡するのか分かったと思いますが、患者の様子がおかしくなっても誰も気づかなければ、麻酔中毒で亡くなってしまうことになります。

 

麻酔の注射は、神経が見えない所に向けて、つまり、血管があるかもしれない所に向けて注射をする手技です。常に、血管内に麻酔薬が入ってしまう可能性も考えて患者さんの観察をしなければなりません。医者が、患者さんが死んでしまう可能性もある手技である、ということを忘れてしまったときに、このような残念な事故が起こります。