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解決事例

2023.12.15

陣痛促進薬オキシトシンの投与方法の誤りと基準を超えるクリステレル胎児圧出法が行われたことで脳性麻痺が残ってしまったことについて8600万円の示談が成立したケース

医療ミスの事案概要

近畿地方の産婦人科クリニックで初産婦さんが出産されたときのトラブルです。微弱陣痛に対して陣痛促進剤のオキシトシンを使用して分娩の促進をしたところ、胎児心拍数陣痛図(CTG)モニター上に、胎児仮死を示す波形レベル3以上の状態が見られたにもかかわらず、陣痛促進剤を減量・中止せず、過強陣痛となった結果、娩出されたお子さんに脳性麻痺の後遺症が残ってしまいました。また、分娩中に行われたクリステレル胎児圧出法は20回にも及んでいました。

法律相談までの経緯

お母様は、我慢強い方だったにもかかわらず分娩のときのお腹の痛さが異常に強く、痛いから帝王切開にしてほしいと何度も医師にお願いをしていました。にもかかわらず、そのくらいは大丈夫だからと経膣分娩を続けたことに疑問を持っておられました。特に、陣痛促進剤を使い始めてから陣痛の痛みが異常だったのに対応してもらえず、痛いお腹を何度も繰り返し押しつづけたことが脳性麻痺になった原因なのではないかと考え、お子さんと一緒に当事務所にご相談に来られました。

相談後の対応・検討内容

分娩経過を評価するために、任意のカルテ開示を行い、陣痛促進剤の投与を始めてから、胎児仮死の状態に陥っているにもかかわらず、産科診療ガイドラインで示された使用方法とは異なる方法、量で薬剤投与が行われていたことが判明しました。

陣痛促進剤は、かつては頻繁に使用された薬剤で、陣痛を強くしすぎてしまい(過強陣痛)、脳性麻痺の原因になるなど、使用方法が社会問題となったことから、産婦人科の各学会でも問題のある使用方法を行わないために産科診療ガイドラインなどが整備されました。現在は、適切な使用方法が明確に決められています。
このケースでは、すでに産科診療ガイドラインなどによって適切な使用方法が決められていたにもかかわらず、投与方法・投与量が不適切でした。特に、胎児仮死(胎児がお腹の中で苦しい状態)になれば薬剤を減量または中止すべきところで、さらに増量されているという明らかな問題がありました。

産科医療補償制度の申請からサポート

ご両親は、出産の数ヶ月後に当事務所に相談にこられたため、まだ産科医療補償制度の申請前でした。産科医療補償制度では、原因分析が行われますが、その際には保護者の意見・質問を提出することができます。質問を提出する際に、当事務所でのカルテ検討の結果に基づいて質問書を作成し、原因分析の際に問題点に回答してもらえるように対応しました。

弁護士のサポートにより充実した原因分析報告書が得られることも

産科医療補償制度の原因分析手続では、「①保護者等からの情報収集」も行われます。保護者自身が実際に見て感じた事実経過や、疑問・質問、意見なども提出することができます。原因分析報告書の作成に深く関わる段階ですので、当事務所では、保護者からの聞き取り内容を詳しくまとめ、カルテから検討した問題点を整理して質問書を作成し、提出しました。
このケースでは、分娩後、早い時期にご相談に来ていただけたことから、産科医療補償制度の原因分析に際しても弁護士としてサポートすることができました。保護者の質問として質問書を作成したことで、原因分析報告書にも評価できる内容が記載されることになり、最終的に和解に至れた一因になったと考えます。

原因分析報告書で指摘された内容とは・・・

このケースでは、原因分析報告書には産婦人科クリニックの対応に様々な問題点があったことが指摘されていました。
①胎児心拍数陣痛図(CTG)の判読と対応について、産婦人科診療ガイドラインに沿って習熟すべき
→CTGの読み方がガイドラインに沿っていなかった
②子宮収縮薬(オキシトシン注射液)を投与する際の増量方法についても、産婦人科診療ガイドラインに沿って行なうべき
→増量方法がガイドラインに沿っていなかった
③子宮収縮薬(オキシトシン注射液)使用中に、胎児心拍数波形以上を認めた場合には減量・終止すべき
→減量・中止すべき時にしなかった
④正確な診療記録の記載を行なうべき→カルテ記載も適切に行われていなかった
⑤2つ以上の薬剤を併用しないことが望まれる→併用してはいけないのに併用していた
この報告書の記載は、相手方の産婦人科クリニックにも送付されました。

原因分析報告書とは

示談交渉

カルテの詳細な検討に加え、産科医療補償制度の原因分析報告書での記載をもとに、産婦人科クリニックに対して話し合いによる解決(損害賠償請求)を求めたところ、相手方は対応に問題があったことを部分的に認め、示談による解決を図りたいと連絡がありました。

交渉において当初は、産科医療補償制度による3000万円の補償も含めて4000万円程度の提示がありましたが、産婦人科クリニックの対応が非常に悪質かつガイドラインに沿った対応をしていないことを複数回の文書によって指摘して交渉を続け、最終的には、産科医療補償制度で既払いの1320万円を含む8600万円の示談が成立しました。

産科医療補償制度だけであれば総額3000万円の補償しか受けることができなかったところ、産科医療補償制度の補償金とは別に7280万円の賠償を得る結果に至ることができました。

富永弁護士のコメント

陣痛促進剤は、今や、適切な使用方法が全国の産婦人科に知れ渡っている状況です。不適切な使用方法により、過強陣痛や脳性麻痺に至った場合には損害賠償請求が可能なケースも多いと考えられます。仮に適切な使用方法を行って、不幸にも脳性麻痺となったケースであれば、産科医療補償制度(無過失補償)の範囲内の補償でも仕方がないと考えられますが、産婦人科での対応に明らかな問題がある場合には、産科医療補償制度では不十分な補償を医療機関から得ることができます。
原因分析報告書の記載内容は、保護者の方々にはどう解釈してよいかわからないことも多いと思われますが「もしかして、問題があったのではないか?」と感じておられるなら、是非、一度、弁護士に相談してみることをおすすめします。

この記事を書いた人(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。

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