がん検診で肺がんを見落とされ治療開始が遅れたことについて100万円以上の和解が成立した事例

2021年07月19日 | 解決事例

医療過誤・医療ミス・問題解決事例

医療ミス・医療過誤の事案概要

関東地方の市町村が実施した肺がん検診でがんの見落としがあり手術や抗がん剤などの治療開始が半年遅れたトラブルです。

相談までの経緯

このケースでは、市区町村から肺がん検診の委託を受けていたクリニックの医師が、見落としをしてしまい、ダブルチェック(二重読影)も行っていなかったことが判明し、市町村を信頼していた患者様が信頼を裏切られたと感じて相談に来られました。

集団検診の肺がん見落とし

がんの見落としは肺がんに限らず相談が多く寄せられます。このケースは、定期的に市町村の行っていた肺がん検診を受けていたにもかかわらず、レントゲン写真の異常な影を見落とされ、その後、自分で咳が続くため医療機関を受診して肺がんと診断されました。自治体(市区町村)が行っている集団検診では、全国に統一された方法に沿って検診を行なうことが決められています。例えば、肺がんでは、「肺がん検診の手引き」・「肺がん検診のためのチェックリスト」が各医療機関に配布され周知されてていて、その方法に従った検診が行われていなければ問題がある可能性が高いと考えられます。肺がんであれば、喫煙指数(1日本数✕年数)が600以上かどうかをチェックすることや、放射線科医、肺がん診療に関わる医師(呼吸器内科医、呼吸器外科医)による読影を行っているか、ダブルチェック・2重読影(二人の医師によって画像を確認すること)が行われているか、「肺がん検診に関する症例検討会や読影講習会」に年1回以上参加しているか、適切な機械を使ってレントゲンやCT検査を行っているか、等について詳しく定められています。

肺がん検診で見落としをなくすためのシステム

肺がん検診を適切に行なうために、肺がん検診委員会があります。「肺がん検診用として推奨する胸部X線デジタル撮影機器および画像処理パラメータ条件」などを日本肺癌学会ホームページ上で定期的に公開し、年1回の情報更新も行なわれています。
日本肺癌学会でも、低線量胸部CTでの肺がん検診の有効性評価や、患者に与える不利益等を常に研究し、患者さんや医師・医療従事者に対して適切な情報を提供できるように努めています。日本CT検診学会やその他学会も肺がん検診には力を入れていて、できるだけ早く、正確に有効ながん検診を行なうように研究が進んでいます。
そんな中で、「肺がん検診の手引き」や「肺がん検診のためのチェックリスト」に沿った検診が行われていたのかどうかが、医療ミスといえるかの重要なポイントとなります。

相談から訴訟までの経緯

ご本人からの相談を受け、まず、任意のカルテ開示によって医療記録を全て入手し、当事務所で検討しました。レントゲン画像では、肺がんを疑うべき陰影(白く映る影)が写っていたため、見落とされていたことが明らかになりました。そのため、市町村からの委託を受けていたクリニックに対して、「肺がん検診の手引き」などに沿った医療が行われていなかったとして訴訟外での交渉をはじめました。

相談後の弁護士の対応

示談交渉では、クリニック側は見落としをしていたことを認めました。しかし、見落とされた期間が半年程度であったため、半年前に見つかったとしても治療方法は変わらず、治療成績も変わらないため損害は100万円以下であると主張してきました。がん見落としの示談交渉においては「見落としなく理想的な医療が行われていたときのがんのステージ・治療方法」が争いになることが多く、今回のケースでは、比較的早期発見であり、がんの悪性度もそれほど高くないタイプであったため、半年の診断の遅れがあったとしても手術の方法は変わらず、予後が良いことがわかりました。さらに、肺がん診断後の病理検査(顕微鏡で肺がんを観察する検査)の結果から肺がんの悪性度の高さや効果のある治療方法、治療成績、予後、検診の時のレントゲン画像からは診断すべきだったときの肺がんの大きさ等を推定し、肺がんのステージと予後についても相手方に文書で説明しました。

示談交渉の結果

仮に半年の遅れで治療方法や予後に大きな変わりがないとしても、半年間治療を受けられるはずであった期待を裏切られたことは補償に値するとして、相手方の謝罪と100万円以上の示談金を支払うことで解決しました。

富永弁護士のコメント

がんの見落としは、患者さんやご遺族の思いを補償金に反映させることが難しいケースが多いと感じています。その難しさは、見落としがなかった場合の、がんの進行度やステージを推測するための証拠が(見落として放置されているために)乏しい点や、がんは悪性度の異なる細胞の集まりであるために、進行を予測したり、逆算したりすることが非常に難しい点にあります。そのため、医療機関側は、見落としたことを棚に上げて、「見落としがなかったとしてもすでに転移していた」とか「見落としがなかったとしても、がんのステージは変わらない」とか「見落としがなくても治療法はかわらないから損害はないはず」などと主張してきます。今回のケースも、半年後に本人が医療機関を自ら受診してがんの早期発見に至れたため、結果的には、手術方法や治療薬は変わらず、がんの進行度(ステージ)もそれほど進まずに完治できた可能性が高かったと考えられました。しかし、「がん見落とし」があった事実は明らかですので、医療機関側が「損害がない」等と主張することは許されることではなく、半年後にがんが見つかったときの不安感や怒りの気持ちも含めて、見落としをしたことを認め、補償してもらうよう主張し、和解に至ることができました。
がん見落としの医療ミスは、医学的問題だけではなく、様々な法律的問題も孕む難しいケースが多いです。「見落としではないか」、とお気づきになられたら、ぜひ一度、医療を専門とする弁護士に相談されることをおすすめします。

代表弁護士・医師 富永 愛

この記事を書いた⼈(プロフィール)

弁護⼠法⼈ 富永愛法律事務所 代表弁護⼠
医師(外科) 富永 愛

医学部卒業後、民間病院で現役外科医として勤務しつつ医療専門に特化した富永愛法律事務所開設。現役医師・弁護士として、開設以来、医療過誤・医療ミスを専門に扱う事務所として、医療に関わる全ての法律問題を迅速に解決することを目指しています。病院・診療所・クリニック・介護施設・薬局・老健施設等、医療に関わる問題は、お気軽にご相談ください。