陣痛促進剤の不適切な使用とクリステレル胎児圧出法をガイドラインに反して20回以上行ったケースで、産婦人科クリニックの損害賠償責任約8000万円(産科医療補償制度から既払い金額約1000万円)があった事案

2021年07月26日 | 解決事例

医療過誤・医療ミス・問題解決事例

事案の概要

初産婦で38週の出産時のトラブルです。近畿地方の産婦人科病院で陣痛促進剤の不適切な使用と20回以上のクリステレル胎児圧出法が原因で脳性麻痺になったケースです。

産科医療補償制度とは

産科医療補償制度については、『産科(産科医療補償制度の原因分析報告書の読み方)』のページも参照してください。
産科医療補償制度は、産婦人科医の医療に過失がなくても(無過失でも)救済する点が非常に重要な制度で、弁護士に依頼して損害賠償請求を行わなくても、一定の要件を満たせば総額3000万円程度の補償が受けられます。その制度の目的は、分娩に関連して発症した重度脳性麻痺のお子様とその家族の経済的負担を速やかに補償すること、脳性麻痺発症の原因分析を行い、同じような事例の再発防止に資する情報を提供することで、紛争の防止・早期解決および産科医療の質の向上を図ることを目的として設立されました。

産科医療補償制度と示談金の関係

産科医療補償制度の申請が認められた場合には、まず一時金として600万円が支給され、その後は、1年毎に120万円が支給されます。20回(0歳からであれば20才まで)支給されますので、総額600万円+120万円✕20回=3000万円となります。
では、弁護士に依頼して示談や訴訟を行い損害賠償請求が認められた場合には、すでに支給を受けた産科医療補償制度の補償金はどうなるのでしょうか?

補償金と損害賠償金の調整の考え方

産科医療補償制度では、「分娩機関に損害賠償責任がある場合は、産科医療補償制度が存在しない場合と同様に、損害賠償責任に関する金銭を自ら全額負担するという考え方に基づき調整を行なう」(標準補償約款第8条、加入規約第26条)と規定されています。
つまり、分娩機関(産婦人科クリニック・病院)が損害賠償責任を負うことになり損害賠償金が確定した場合には、本来であれば、分娩機関(産婦人科クリニック・病院)が支払うべき金額の一部を、産科医療補償制度が支払っていたと考えられるため、すでにもらっていた支給額は、損害賠償請求金から差し引かれてしまいます。

示談や判決で8000万円の支払いを受け、産科医療補償制度から1000万円の支給を受けていた場合

すでに1000万円の支給を受けていた場合、示談や判決で8000万円の支払いが命じられても、
  分娩機関(産婦人科クリニック・病院)の責任8000万円のうち
          ↓                 ⇓
産科医療補償制度に1000万円分を返還    残りの7000万円を児童・保護者に支払う

ということになります。
この事情を知らないで示談交渉を進めてしまうと、すでにもらっていた1000万円とは別に、あと2000万円分が産科医療補償制度でもらえると思っていたのに、実際には、支給を求めても「すでに分娩機関(産婦人科クリニック・病院)から全額の補償を受けていて、損害賠償責任が認められた場合には、産科医療補償制度では補償できません)といわれてしまうことになり、産科医療補償制度と損害賠償請求権について熟知している弁護士に依頼しないと後のトラブルを残してしまうことになります。

産科医療補償制度側は、損害賠償請求をされた際に通知を受けている

分娩機関(産婦人科クリニック・病院)は、損害賠償請求を受けた場合や、証拠保全が行われた日を産科医療保障を運営する日本医療機能評価機構に通知することが求められています(加入規約第25条)。
 そのため、医療機関との示談交渉や訴訟を行う際には、産科医療補償制度での既払い金を含めた交渉が必須となります。

弁護士の対応

このケースでは、生まれてから産科医療補償制度の申請を行いつつ、示談交渉を開始し、原因分析報告書が提出されるまでに約1年かかり、その後の交渉まで3年かかりました。そのため、産科医療補償制度からの一時金の支給600万円と、1年120万円の支給をすでに3回(360万円)の総額960万円受けていました。話し合いによって、産科医療補償制度での既払い金を含めた金額を確定し、約8000万円(産科医療補償制度の960万円を含む)となりました。示談書には、損害賠償請求として8000万円を支払う義務が医療機関にあることを認めつつ、今後、保護者から産科医療補償制度への支給請求を行わない旨の記載など権利関係を一元的に解決する文言の示談書を作成しました。

結果

約8000万円(産科医療補償制度の960万円を含む)の示談に至ることができました。同時に、産科医療補償制度、医療機関、児童・保護者の権利関係も示談書に明記して一括解決に至ることができました。

富永弁護士のコメント

示談交渉時に、産科医療補償制度と医療機関の賠償責任の関係について依頼者(児童・保護者)に十分な説明を行った上で、示談交渉を進める必要があります。この権利関係について十分に知識のある弁護士に依頼することで、産科医療補償制度での支給額と、損害賠償請求で支払いを受けた金額の関係や、最終的に依頼者(児童・保護者)が得ることができる金額のイメージがしやすくなります。
示談交渉は、条件に応じるかどうかの重要なポイントとして、依頼者(児童・保護者)が最終的に得られる金額を正確に説明してもらわなければ、弁護士と依頼者の間の信頼関係が揺らぐことや、後に遺恨を残すことになります。
このあたりの金額について、明確に、正確に説明をしてくれる弁護士に依頼することが重要です。

代表弁護士・医師 富永 愛

この記事を書いた⼈(プロフィール)

弁護⼠法⼈ 富永愛法律事務所 代表弁護⼠
医師(外科) 富永 愛

医学部卒業後、民間病院で現役外科医として勤務しつつ医療専門に特化した富永愛法律事務所開設。現役医師・弁護士として、開設以来、医療過誤・医療ミスを専門に扱う事務所として、医療に関わる全ての法律問題を迅速に解決することを目指しています。病院・診療所・クリニック・介護施設・薬局・老健施設等、医療に関わる問題は、お気軽にご相談ください。