産科医療補償制度の申請から弁護士が関わることで産科医療補償制度よりも増額した示談解決(8000万円以上)が可能となったケース

2021年07月26日 | 解決事例

医療過誤・医療ミス・問題解決事例

産科医療補償制度を活用することの重要性

分娩時や分娩後のトラブルによってお子さんが脳性麻痺になった場合、医療機関に産科医療補償制度とは別に損害賠償請求を求めることができることもあります。そこで、産科医療補償制度の申請の際に弁護士に相談するメリットと、原因分析報告書の活用方法について、是非、詳しく知ってもらいたいため詳しく説明します。

産科医療補償制度とは

産科医療補償制度とは、安心して産科医療を受けられる環境整備の一環として、2009年1月1日より公益財団法人日本医療機能評価機構が運営する医療分野における我が国初の「無過失補償制度」です。産婦人科医の医療に過失がなくても(無過失でも)、救済する点が非常に重要な制度で、弁護士に依頼して損害賠償請求を行わなくても、一定の要件を満たせば総額3000万円程度の補償が受けられます。その制度の目的は、分娩に関連して発症した重度脳性麻痺のお子様とその家族の経済的負担を速やかに補償すること、脳性麻痺発症の原因分析を行い、同じような事例の再発防止に資する情報を提供することで、紛争の防止・早期解決および産科医療の質の向上を図ることを目的として設立されました。

産科医療補償制度で保証されるお子さんとは

この制度で保証されるお子さんは、

●2015年1月1日から2021年12月31日までに出生したお子様の場合

  1. 出生体重1,400g以上かつ在胎週数32週以上、または在胎週数28週以上で所定の要件
  2. 先天性や新生児期等の要因によらない脳性麻痺
  3. 身体障害者手帳1・2級相当の脳性麻痺

●2022年1月1日以降に出生したお子様の場合

  1. 在胎週数が28週以上であること
  2. 先天性や新生児期等の要因によらない脳性麻痺
  3. 身体障害者手帳1・2級相当の脳性麻痺

となります。
概略を説明すると、「お母さんのお腹の中で、1400g以上(28週以上)のお子さんが、お腹の中で半減期な状態であったのに、分娩や分娩後に脳性麻痺になり、身体障害者手帳1・2級相当になった」場合に補償されることになっています。

産科医療補償制度の申請手続き

産科医療補償制度の申請手続きは、お子さんが脳性麻痺になった場合には、産婦人科クリニックや病院、あるいは小児科の主治医が申請手続きに協力してくださることが多く、小児科の医師の診断書が必要になります。ほとんどの手続きは小児科で相談しながら進めていくことになります。

産科医療補償制度の補償金額

産科医療補償制度の申請が認められた場合には、まず一時金として600万円が支給され、その後は、1年毎に120万円が支給されます。20回(0歳からであれば20才まで)支給されますので、総額600万円+120万円✕20回=3000万円となります。

補償内容支払い回数補償金額
準備一時金1回600万円
補助分割金(看護・介護費用として毎年定期的に20才頃まで支給)20回1年毎に120万円

但し、脳性麻痺のお子さんは、小児科医の先生方の協力やご両親の懸命の介護の成果として20代以降もお元気な方が多くなって来ていますので、20才前後までの補償では、お子さんの将来に不安が残ると考えておられる保護者の方は多いです。

産科医療補償制度の申請期限

産科医療補償制度は、医療機関が問題がないケースでも支給されるものですので、忘れずに必ず申請することが重要ですが、補償申請期限は「お子様の満5歳の誕生日まで」となっています。脳性麻痺になったのに、申請手続きをしておられない場合には、是非小児科で相談されることをおすすめします。

産科医療補償制度の原因分析制度の流れ

産科医療補償制度では、補償金の支給が決定されると、産婦人科クリニックや病院のカルテなどを検討して、脳性麻痺に至った原因位について分析する手続きがあります。
原因分析報告書の作成の流れとして、報告書は、

  1. 分娩機関およびお子様・保護者等からの情報収集
  2. 原因分析報告書の作成
  3. 分娩機関およびお子様・保護者への報告書送付

の3段階を経て作成されます。
審査の結果、補償対象となり、原因分析を開始してから報告書の完成までに概ね1年の期間を要するといわれています。

弁護士が関わることで充実した原因分析報告書が得られる

この原因分析手続の中で、「①保護者等からの情報収集」では、保護者自身が見て感じた事実経過をまとめて提出することや、疑問・質問、意見などを提出することができます。報告書の作成に深く関わる段階ですので、当事務所では、保護者からの聞き取り内容を詳しくまとめ、カルテなどから検討した質問事項を文書で作成して提出します。
通常は、調査の際には、医療機関からのカルテだけでは当時の状況がわからないため、保護者からの意見の聞き取りもかんたんな文書で回答するよう求められます。このケースでは、分娩後早期に相談に来ていただけたことから、保護者の意見書作成にも当事務所が関わることができ、原因分析報告書に一定の評価できる内容が記載されたことが、和解に至れた大きな要因となりました。

産科医療補償制度の原因分析報告書の読み方

原因分析報告書は、本来は、医療機関の責任追及を目的とするのではなく、「なぜ起こったか」などの原因を明らかにするとともに、同じような事例の再発防止を提言するためのものとされています。そのため、報告書の記載内容は、医療機関の対応に問題があった場合でも、過失があるというような記載はありません。
しかし、産科診療ガイドラインなどの一定の基準がありますので、基準に沿っていない医療が行われていれば、そのような処置は「一般的ではない」、標準的な方法から「逸脱している」等と記載されることがあります。
弁護士として産婦人科クリニック・病院の責任を追求する立場から見ると、
「一般的ではない」=「標準的な医療を行っていない」
「逸脱している」=「標準的な医療から大きくことなる問題となる対応」
と考えることができ、法律上の『過失』があったと判断できるケースがあります。
原因分析報告書の記載を読んで、納得できないと考えておられる保護者の方は多いです。疑問がある方は、是非、弁護士に相談されることをおすすめします。

当事務所で行っている原因分析報告書の研究会

産科医療補償制度で作成された報告書の内容は、再発防止や産科医療の質の向上を図ることを目的として、原因分析報告書の「要約版」(個人名や医院・病院名を伏せた情報)が公表され、日本中の産婦人科医師は、どのような事故があったのかを報告書から読み解き、これからの産科医療に役立てています。当事務所では、産婦人科医師の協力のもとでこれまでの報告書の内容について定期的にディスカッションを行い、産科医療で起こっている事故の研究を行っています。

結果

このケースでは、相手方産婦人科クリニックも産科医療補償制度の原因分析報告書の記載を考慮して話し合いに応じたという背景があります。通常産科でのトラブルは、責任がないとの回答が多い中、産科医療補償制度の申請手続きから弁護士が関わることで、第三者による報告があり裁判手続きを経ずに話し合いで8000万円を超える解決に至ることができました。

富永弁護士のコメント

陣痛促進剤は、多くの問題があった歴史的背景から、ガイドラインなどが充実し、全国的に一律の投与方法が確立されつつあります。そのため、不適切な使用方法で過強陣痛や脳性麻痺に至った場合には、損害賠償請求が可能なケースも多いと感じます。原因分析報告書の記載内容は、保護者の方々にはどう解釈してよいかわからないことも多いと思います。「もしかして、問題があったのではないか?」と感じておられるなら、是非、一度、弁護士に相談してみることをおすすめします。

代表弁護士・医師 富永 愛

この記事を書いた⼈(プロフィール)

弁護⼠法⼈ 富永愛法律事務所 代表弁護⼠
医師(外科) 富永 愛

医学部卒業後、民間病院で現役外科医として勤務しつつ医療専門に特化した富永愛法律事務所開設。現役医師・弁護士として、開設以来、医療過誤・医療ミスを専門に扱う事務所として、医療に関わる全ての法律問題を迅速に解決することを目指しています。病院・診療所・クリニック・介護施設・薬局・老健施設等、医療に関わる問題は、お気軽にご相談ください。