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抗精神病薬の大量投与により悪性症候群を発症し死亡した事例で、6000万円以上の裁判上の和解が成立したケース

医療過誤・医療ミス・問題解決事例

医療事故の事案概要

関西地方の精神科病院に初めて入院し抗精神病薬の投与を受けていた若年の患者様が、入院中一旦症状軽快して退院予定となったあとに、躁状態となり抗精神病薬を大量投与され悪性症候群を発症しましたが、具体的な対応が行われないまま心停止で発見されたケースです。

悪性症候群とは

悪性症候群とは
悪性症候群(神経遮断薬悪性症候群; Neuroleptic malignant syndrome)とは、主に精神神経用薬を服薬しているときに、発熱、意識障害、錐体外路症状、自律神経症状が出現し、早期に適切な治療が行われなければ死にいたる可能性のある潜在的に重篤な薬剤の副作用です。古くから報告されており、1956 年に Aydが「fatal hyperpyrexia」として症例を報告し、1960年に Delay らが複数の症例を提示したことで Syndrome malin(フランス語・サンドローム・マラン、英語ではNeuroleptic malignant syndrome) と名付けられました。悪性症候群がまだあまり知られていない当初は、その死亡率は高かったといわれています。「悪性」というのは死亡率が高い病気であるということを意味しています。
しかし、1980 年以降、悪性症候群の症例報告が増え徐々に周知されるようになり、臨床研究も進んだことで、日本でも、昭和 61 年より実施された厚生省悪性症候群研究班による大規模な調査が行われました。その結果、どのような状況や患者に多いのかという発症危険因子や、対症療法などの治療法も報告されるようになり、予後は著しく改善されています。
薬剤による副作用ですので、悪性症候群のメカニズムや病因、どのような病態なのかは十分に明らかになっていないともいわれていますが、早期発見・早期治療が重要だということは医療従事者の間でも認識されています。しかし、残念ながら発見が遅れてしまう場合や、急激に重篤になる例、特殊な発症経過をたどるものなどもあるといわれ、医療現場においては常に念頭に置いて注意を払うべきだと考えられています。
悪性症候群は薬剤の副作用の一つです。原因となる薬剤は、精神科で使われる抗精神病薬が有名ですが、他に抗うつ薬、気分安定薬、パーキンソン病治療薬、抗認知症薬による報告もあります。そのため、精神科だけでなく、心療内科、神経内科、内科、外科、麻酔科、その他多くの診療科ないしはプライマリー・ケアでも悪性症候群が起こることはあり、精神科治療における問題だけではありません。

悪性症候群の症状は

急性の発熱や意識障害、錐体外路症状(筋肉が固くこわばる:筋強剛、手足が勝手に震える:振戦、しゃべりにくい:構音障害、飲み込みにくい:嚥下障害、よだれがでる:流涎など)、自律神経症状(発汗、頻脈・動悸、血圧の変動{高血圧・低血圧}、おしっこが出ない:尿閉など)、呼吸不全(呼吸ができなくなること)などを認める。重症な例になると、骨格筋組織の融解が起こったり、進行すると血中・尿中ミオグロビン(尿が茶色っぽくなる)が高値となり、腎障害を起こして急性腎不全にいたることもあります。また代謝性アシドーシス(体が酸性に傾く状態)や DIC(播種性血管内凝固症候群)にいたることもあります。体温は通常 38 度を越えるといわれていますが、微熱で推移する場合もありますので、発熱の程度だけで症状があるかどうかを診断・治療の目安にすべきではないともいわれています。筋肉の動かしにくさ(筋強剛)は程度の軽重も含めてほとんどのケースで認められるといわれていますが、意識障害は認められない場合もあれば、せん妄や昏睡になってしまうものもあります。もともとの病気による精神状態の悪化との区別がつきにくいこともあります。
このような症状の出現とほぼ同時に、血液検査の異常(血清 CKクレアチニンキナーゼ高値や白血球が増えるなど)が多くのケースで認められますので、血液検査を行い、経過観察をすることも重要となります。

悪性症候群の治療

まず、悪性症候群の早期発見が何よりも重要です。悪性症候群は潜在的に死亡する可能性がある疾患ですから、発症可能性を疑って早期発見に努める必要があります。悪性症候群の症状や検査結果が認められるか、あるいは確定診断に至らなくても、発症が強く疑われる場合には速やかに原因と考えられる薬を中止し、症状がごく軽微な場合には、段階的な服用中止も検討すべきといわれています。同時に必要な臨床検査を行い、臨床症状、検査データを観察・追跡することも重要です。また、死にいたる可能性を念頭に置いて、患者の全身状態に合わせて循環器・呼吸機能をモニタリングしながら全身管理を行う必要があります。脱水は症状を悪化させるため、必要に応じて点滴による補液や電解質の補正を行う必要もあります。

悪性症候群についての厚生労働省のホームページ情報

悪性症候群は、このように早期発見すべき疾患であるため、平成20年4月に「重篤副作用疾患別対応マニュアル:悪性症候群」が作成され、PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)のホームページにも詳細な情報が示されています。医療関係者向け情報だけでなく、患者様向け情報もありますので気になる方は是非ご確認下さい。
https://www.pmda.go.jp/files/000144356.pdf

薬の副作用について

悪性症候群は薬の副作用の一つでもあります。薬の副作用や医療機器の不具合と考えられるケースについては、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency:PMDA)による医薬品副作用被害救済制度の手続によって、一定の補償を受けることができます。詳しくは、医薬品副作用被害救済制度についての説明をご覧下さい。
くすり・薬剤の副作用かな、と思われたときには、まずPMDAの医薬品副作用被害救済制度を検討されることが必要です。フリーダイヤルでの電話相談窓口では、一般の方の具体的な相談にも応じてくれます。ただし、この救済制度の申請をするときには、薬を処方した医師や医療機関から診断書などについての協力が必要になります。ケースによっては、医師や医療機関が対応してくれない場合もあります。診断書や投薬証明書を作成してもらえなくても、弁護士による代理申請手続で申請を行うことが可能です。医師や医療機関との関係がこじれてしまったケースや、なぜか医師が協力してくれないようなケースでは、医療専門の弁護士に相談されることが必要です。

受任に至る経緯

このケースでは患者様が亡くなった後、ご遺族が病院側と何度も説明会で話し合いを重ねましたが、病院側は悪性症候群だった可能性についても説明せず、責任はないということだったため、ご遺族としては説明内容などに疑問を持たれ、悪性症候群についても調べておられました。ご遺族自身では具体的に医学的な問題点を検討、特定することが難しかったため、当事務所に調査や交渉を依頼されました。

受任後の対応

まず薬の副作用が強く疑われるケースであったため、PMDAの医薬品副作用被害救済制度について申請手続をしました。PMDAは投与していた複数の薬剤による悪性症候群であることを認め、給付金が支給されました。また病院に対しては損害賠償を求める通知書を送付して交渉しましたが、裁判前には話し合いで解決できなかったため、訴訟提起することとなりました。

裁判手続の経緯

裁判では司法解剖が行われていため司法解剖報告書について相手方から送付嘱託手続の申請が行われました。司法解剖についての報告でも悪性症候群であることが明記されていました。書面により主張を行い、原告(ご遺族)側の協力医である精神科専門医の意見書を提出したところ、相手方からも精神科医の意見書が提出されました。双方の意見が対立していたため、裁判所による鑑定手続となりました。鑑定手続において、こちらからは、精神科だけではなく全身疾患の管理が行えるICU勤務歴、悪性症候群治療歴のある集中治療専門医の鑑定も求め、2名の鑑定人が認められました。悪性症候群の診断については精神科専門医の鑑定、悪性症候群に対する全身治療や脂肪との因果関係(救命できた可能性)の有無については集中治療医の鑑定が行われ、2名の鑑定意見を総合すると、悪性症候群の診断は難しかった可能性があるものの、血液検査で異常値が出現していたときに治療を行っていれば救命できていた可能性は高い、という内容でした。

この鑑定意見を踏まえて裁判所から和解の勧告がありました。裁判所としては、難しい判断を要するケースであり、敗訴する可能性もあるが、高等裁判所での判断は当裁判所(地方裁判所)の判断と異なる可能性があること等を考慮し、双方譲歩した金額での和解が可能かとの提案がありました。
原告であるご遺族と慎重に検討を重ね、訴訟長期化を避けること、判決での敗訴のリスク等も考慮して裁判所からの和解勧告を受け入れることで解決に至りました。

富永弁護士のコメント

悪性症候群は薬の副作用として有名な病態です。当初、カルテなどを検討した結果、悪性症候群であることは明らかだと判断し、まずPMDAによる被害救済手続の申請を行い、スムーズに救済の決定を得ることができました。そもそも被害救済制度は、医療機関の薬剤投与に関わる過失の有無は判断せず、薬剤と結果(死亡)との因果関係があれば認められます。本件では、副作用が出現し、その後の治療について医療機関の責任があるかどうかを訴訟で争ったことになります。双方が専門家の意見書を提出したため2名の鑑定人による鑑定手続となりましたが、1名の鑑定人から適切・妥当な判断をしてもらえたことが、早期解決の決め手になりました。一般的に、鑑定手続は、どんな考え方を持つ医師が鑑定人に選任されるかわからないため、患者様やご遺族にとっては、「医療者側に忖度した鑑定」がなされるのではないかという心配があるものです。しかし、今回は、精神科医師だけではなく、客観的に第三者の立場であり悪性症候群の治療歴がある集中治療医を選任するよう強く求めたことで、比較的妥当な鑑定意見を作成していただけたのではないかと感じます。

解決事例

代表弁護士・医師 富永 愛

この記事を書いた⼈(プロフィール)

弁護⼠法⼈ 富永愛法律事務所 代表弁護⼠
医師(外科) 富永 愛

医学部卒業後、民間病院で現役外科医として勤務しつつ医療専門に特化した富永愛法律事務所開設。現役医師・弁護士として、開設以来、医療過誤・医療ミスを専門に扱う事務所として、医療に関わる全ての法律問題を迅速に解決することを目指しています。病院・診療所・クリニック・介護施設・薬局・老健施設等、医療に関わる問題は、お気軽にご相談ください。