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『吸引分娩で生まれた赤ちゃんが約半日で死亡』背負い続ける後悔と責任

2023.02.16

4年もかかる裁判を経てようやく裁判所が産科クリニックの過失を認めた、との報道を見ました

「吸引分娩」で生まれた赤ちゃんが約半日で死亡 産科クリニックに5090万円の賠償命じる判決 助産師がチアノーゼ症状に気づくも医師に報告せず 2023年1月24日大阪地裁がクリニックに賠償を命じる判決(2023年1月24日 ABCニュース)

死因は帽状腱膜下血腫

死因は、出産時に頭部を引っ張る「吸引分娩」によってできた帽状腱膜下血腫による出血性ショックだったということですが、医療機関であれば出産後、赤ちゃんの様子がおかしいことに当然気づくはずのところ、経過観察をしていた間は異常所見を認めなかったとクリニック側は反論していたそうです。
許し難いことだと思います。

毎日、新生児を扱っている助産師が、出血性ショックを起こしている赤ちゃんに気づかないはずはありませんし、吸引分娩には、帽状腱膜下血腫が起こる可能性があることも当然知っているはずだからです。

出産直後の赤ちゃんを観察するポイントの一つとして、皮膚色(皮膚の色が、ピンク色をしているかどうか)は必ず見るはずです。赤ちゃんの状態に異常がなければ、全身に酸素が十分行き渡っていることを示すピンク色になります。反対に、酸素が十分でなければ青白い色のチアノーゼになります。チアノーゼも、手足の先が青白いのか、体全体や、唇が青白いのか、を見るのも助産師の重要な仕事です。

このケースでは、吸引で頭を引っ張った際に、頭の表面にある腱膜の下に出血が起こって、血が足りない状態になり、全身の血流が不十分になって、赤ちゃんは青白い様子だったと考えられます。

裁判所は病院側の責任を認める判断をした

判決は、「青白いチアノーゼの症状が出て全身の色が悪くなっていることは、『帽状腱膜下血腫』の合併症が生じていることを疑うのに十分な所見で搬送していれば助かっていた可能性が高い」と判断しました。

裁判所は、適切な認定をしていると思います。症状を観察していたのは助産師で、助産師が医師に相談していなかったことで、出血性ショックで死亡してしまったという悲しい事故だと思います。

もっと私が知識を持っていれば…

勇気をもってお母さんが実名報道をされています。「助けてあげられなかったという後悔が一番大きい」、「ママがおかしいと気づいた段階で、助産師なり看護師に状況を確認していれば、もっと早く搬送してもらえれば、という思いはずっと持っている」とのコメントに涙が出ました。

医療ミスや医療事故に遭われた患者さんやご家族は、まずご自身を責めてしまいます。特に、お子さんに関わる事故では、私がもっと早く対応していれば、別の病院に行っていれば、と後悔されておられることが本当に多いのです。
当事務所で相談を受ける医療ミスのケースでも、皆さん自分を責め、やるせない思いの中で、弁護士のところにようやくたどり着いたという方がたくさんおられます。

分娩時の事故の相談では、赤ちゃんのお父さんがドクターだったこともあります。自らも医者なのに、自分の子供の出産について、産婦人科の知識をもっと勉強しておけば、自分が助けられたのに、という思いは、裁判をしても消えることはありません。その罪の意識を背負い、一生、生きてゆかれるのです。弁護士として、医師として、その辛さは容易に想像できます。

医療事故や医療ミスを抱えて、弁護士に相談してみようと思われる方は、医師を責めようと思っているばかりではないのです。自らも責任があると覚悟をした上で、それでも「もう少し患者のことを考えてくれていたら」という期待と信頼を頼りに裁判に進まれるのです。

今回のケースでもご家族は、亡くなったご長男、柊(しゅう)ちゃんの死を無駄にしたくないという思いで裁判を決意されたのだと思います。さらに、お母さんはクリニックや医師へのコメントだけでなく、これから出産をするお母さんたちに向けてもコメントされておられたのが印象的でした。

出産とは命がけのこと 悲痛な思いに応えたい

自らの後悔をこれからも背負ってゆかれる覚悟なのだと、悲痛な思いに胸を打たれます。
産婦人科の医療事故や医療ミスの相談を受けるたびに、子供を生むということが、どれだけ大変で命がけのことなのか、日々実感します。

妊娠・出産のトラブルで、お子さんや妊婦さんに障害が残ってしまった・・・など、お悩みの方はぜひ産科医療LABOへ一度ご相談ください。

この記事を書いた人(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。

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