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まだあるのか!子宮収縮薬(陣痛促進剤)の間違った使い方!

2023.05.26

2009年に始まった産科医療補償制度では、2011年以降、脳性麻痺になったケースについて原因分析報告書を検討・分析して、毎年1回、テーマを決めて再発防止に関する報告書を発行しています。
今年は、第13回目の報告書となりました。

第13回のテーマは「子宮収縮薬について」

2023年 3月27日付の産科医療補償制度再発防止委員会が出した「再発防止に関する報告書」のテーマは、「子宮収縮薬について」 。
子宮収縮薬とは、いわゆる陣痛促進剤といわれる薬剤のことです。
この薬剤の使用方法が問題といわれてからもう何十年も経ち、再発防止委員会のテーマとして取り上げられるのも第1回、第3回に続き今回が3回目です。

3回も問題になっているということ自体、由々しき問題ですが、これほど陣痛促進剤の使用方法が厳しくガイドラインなどで決められ、薬剤の添付文書にも明確に記載されているにも関わらず、まだ、適切に使用できていないケースがあるのか、と驚きと落胆を感じます。(第1回報告書第3回報告書第13回報告書

分析の対象

今回の分析では2015年4月以降に出生した満37週以降の単胎(双子や三つ子などではない)の分娩での脳性麻痺事案481件が対象です。
481件の対象例のうち、子宮収縮薬を使用したケースは150件 (31.2%) 。
日産婦学会周産 期の統計 (2020年) における一般分娩での使用頻度(30.1%) と比較して、差はなかったとされています。
これは、脳性麻痺になったからといって子宮収縮薬の使用割合が多かったわけではない、という意味です。

適応自体が不明なケースも

子宮収縮薬の使用には2つの目的があります。
自然に陣痛が起こる前に陣痛を開始させる分娩誘発と、陣痛が弱く分娩が停滞するときに分娩の進行を助ける分娩促進です。
分析の中では、誘発・促進の適応自体が不明のものもあったと報告されています。
子宮収縮薬の使用目的の内訳は150件中、分娩誘発84件・分娩促進66件であり、適応自体が不明であったものが分娩誘発で5件 (6%)、分娩促進で8件 (12.1%)です。

そもそも子宮収縮薬を使う場面ではなかったのに使用したケースが、1割程度もあるということです。
原因分析報告書には、産婦人科診療ガイドラインに従った医療が行われたかどうかによって、ガイドラインに従っていれば「一般的である」と評価されるところですが、問題があるケースでは「一般的ではない」、「基準を満たしていない」、「医学的妥当性がない」と評価されることになります。

75%が「問題事例」という事実

今回の分析では、150件の子宮収縮薬使用例のうち、なんと75%が「問題事例」だったという衝撃の事実が報告されています。
原因分析報告書の「臨床経過に関する医学的評価」のところに、子宮収縮薬に関して「一般的ではない」、「基準を満たしていない」、「医学的妥当性がない」等の評価があるケースが、150件のうち113件 (75.3%) もあったのです。

主な指摘内容

  • 薬の投与量・増量法に関するもの・・・57件(38.0% 薬剤の名前は全例がオキシトシン)。
  • 胎児心拍異常出現時の使用用法・・・52件 (34.7%)
    これは児心拍異常出現時には薬剤を減量・中止するべきとされているところ、胎児機能不全と考えられる状況にもかかわらず投与を継続、増量していたケースなどです。
  • 分娩監視装置の連続装着・・・26件 (17.3%)
    分娩監視装置の連続装着をすべきところ、適切に行われていなかったケースなどです。
  • 子宮頻収縮出現時の使用方法・・・22件 (14.7%)
    子宮収縮薬の作用は、個人差があり、分娩監視装置での監視が常に必要です。あまりに強く薬が効いてしまうと、頻収縮になり過強陣痛といわれる状態になることで、胎児に問題が出現するといわれています。しかし、頻収縮になっていたにもかかわらず、投与を継続した、継続どころか増量したケースを含めて22件 もありました。

子宮頻収縮の発生率は、子宮収縮薬を使わなければ11件 (3.3%) ですが、子宮収縮薬を使用していた事例では30件 (20.0%) と顕著に高くなっています。子宮を収縮させるために人工的な薬剤を投与しているから当然の結果です。

これまで長年にわたって指摘され続けてきた問題が、まだ改善していない現実に驚きます。子宮収縮薬による分娩事故の医療過誤事件と勇気を振り絞って戦ってきた家族の思いは、まだ届いていないところがあるのです。医師の裁量ではなく、人工的な薬剤を使った典型的な問題点が、まだ放置されていることにショックを受けます。

インフォームド・コンセントの重要性

患者への説明の重要性が、すべての診療科でいわれるようになってきているのに、インフォームド・コンセントにも問題があるケースがみられます。子宮収縮薬の使用は、文書での説明・同意をするようにガイドラインで厳しく求められています。しかし、適切な説明と同意ができていないケースが47件 (31.1%)もあり、多くは口頭のみの説明でした。
なぜ、文書での説明が求められているのか、産婦人科医師や助産師がその理由を正しく理解することが必要な現状があります。

原因分析報告書を作成する際には、家族からの質問が受け付けられ、家族から見た経過や問題点も検討内容になっています。150件の子宮収縮薬使用のケースでも、「家族からみた経過」(全79件)に子宮収縮薬使用の意思決定に関するものが19件 (86.4%) 含まれていました。
驚くべきことに、同意なしで使用されたというケースが4件あり 、特に問題があると感じるケースでは「何度も拒否したが応じてもらえなかった」とあります。

他にも、「投与すれば、早く生まれる。という程度の説明しかなかった」とか、「リスクについて一言も説明がなかった」というケース。「内服できないと訴えたが、医師より厳しい言葉を言われ、やむを得ず服薬 した」とか、「呼吸困難になり中止を訴えたが、中止してもらえなかった」、「使用は(医師が関わらず)助産師一人での判断だった」とするものまで。

子宮収縮薬の使用については、これまでも妊婦さんや家族に対して、イン フォームド・コンセントが不十分なままの事例があると、何度も言われ続けてきたことです。

良い病院を選ぶために、求められるオープンな情報

今回の分析結果は、第1回目、3回目に引き続き、子宮収縮薬の不適切な使用が妊婦さんや胎児に重大な影響を与えることを警告しています。不適切な薬剤の使用がまだ続いている現実を、産婦人科医や助産師が知る必要があります。そのような不適切な使用をしている情報は、妊婦さんや家族にオープンにされる必要があると思います。選ばれない医療機関や医師は、改善するでしょう。

悲しいことですが、産婦人科の医療過誤事件に関わっていると、法廷で、明らかにウソだとわかる証言を平気でする医師や助産師さんがいるのも現実です。妊婦さんや家族が、見聞きしていた事実と全く違う証言をして、医師の裁量だから過失はないと発言されるのです。同じ医師として、そのような発言をしているこのドクターが、今も患者さんに関わり、平気な顔をして診療に携わっていることに震撼します。裁判は公開のはずなのに、実際には法廷でどんな嘘をついても、何も困らないのが日本の現実です。

分析結果を見て、改めて、妊婦さんや家族は、産科診療ガイドラインに従っていない不適切な医療機関や医師、助産師をどうやって見極めればよいのか、その情報がないことの重要性を考えさせられました。すべての医療機関が、せめて子宮収縮薬の決められた用法に従って使ってくれること、産婦人科医としての「正しいプライド」を持ってくれることを祈ります。

あのとき平然と、本人のために「薬を使って何が悪い」と開き直っていた医師も、今もどこかでお産に関わっているのです。奥さんとお子さんを亡くしたご主人や、寝たきりの奥さんを抱えながらお子さんを育てておられるお父さん、お子さんのために少しでも良い医療環境を求めて都道府県を超えて引っ越しをされたご家族たちと一緒に、何か出来ることはないのか、自問自答する日々です。

この記事を書いた人(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。

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