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未破裂動脈瘤に対する治療について医師の責任を認めたケース

大阪地裁 平成17729
未破裂脳動脈瘤に対しトラッピング術を実施した結果患者が死亡したところ、合併症発症の確率と動脈瘤の生涯破裂率が同程度であったことから、医師はかかる確率を正確に説明し、保存療法との利害得失の説明義務を負うとした上、本件では医師がかかる説明をせず確率の説明自体にも誤りがあったことから説明義務違反を認め、かつ死亡との因果関係も肯定したケース

同じ未破裂動脈瘤のケースについては、最高裁 平成181027
未破裂脳動脈瘤の存在が確認された患者がコイル塞栓術を受けたところ、術中にコイルが瘤外に逸脱するなどして脳梗塞が生じ死亡した場合において、担当医師に説明義務違反がないとした原審の判断に違法があるとされ、慰謝料が認められた。(1)その治療が予防的なものであったこと、(2)医療水準として確立していた療法としては、当時、開頭手術とコイル塞栓術が存在していたこと、(3)担当医師は、コイル塞栓術の術中に動脈瘤が破裂した場合には救命が困難であり、このような場合にはいずれにせよ開頭手術が必要になるということなどの知見を有していたことがうかがわれること、(4)患者が開頭手術を選択した後の手術予定日の前々日のカンファレンスにおいて、開頭手術はかなり困難であることが新たに判明したことなど、判示の事実関係の下では、上記カンファレンスの結果に基づき、その翌日にコイル塞栓術を実施した担当医師が、同手術を実施することの承諾を患者から得るに当たって、上記の知見や上記カンファレンスで判明した開頭手術に伴う問題点の具体的内容についての説明をした上で、開頭手術とコイル塞栓術のいずれを選択するのか、いずれの手術も受けずに保存的に経過を見ることとするのかを熟慮する機会を改めて与えたか否かなどの点を確定することなく、担当医師に説明義務違反があるとされ、慰謝料請求が認められている。

東京地判 平成14年7月18日 判例未破裂脳動脈瘤の患者に対してコイル塞栓術を実施した際、コイルが動脈瘤から頸動脈内に脱出して移動したため開頭手術をしてコイルを回収しようと試みたが完全には除去できず、残存したコイルの血流障害により脳梗塞を引き起こして患者が死亡した事案で、担当医師には、コイル塞栓術の選択及び手術手技に過失はないが、手術の危険性に関する説明義務違反があり、説明義務違反と死亡との間に因果関係も認められた事例もある。

医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

この記事を書いた⼈(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。
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