Home 9 判例 9 新生児の低酸素症に対して適切な蘇生が行われなかったとして医師の責任を認めたケース

新生児の低酸素症に対して適切な蘇生が行われなかったとして医師の責任を認めたケース

東京地裁 平成4年10月16日 判時1470号96頁 
双胎の第二児が、低体重・重症仮死(1974g 出生時アプガースコア2点、1分後3点)で出生したが、約50分間自発呼吸がないのにバック・マスク換気をつづけ、自発呼吸出現後も保育器温度が標準より低く設定されており、低酸素症が持続したため脳浮腫による重症脳障害となり、1歳半で死亡したケース。判決は、「遅くともマスク・バッグ開始後10分程度経過しても自発呼吸が現れなかった時点で速やかに気管内挿管を行い、その後も継続して呼吸管理・体温維持に留意すべき」として、自発呼吸出現後も低体温であったこと、多呼吸・陥没呼吸などの呼吸障害症状が顕著であったのであるから、低酸素症の進行を疑い、早期に適切な治療を行うか、速やかに設備・技術の整った施設へ転送する措置をとるべき注意義務があったとして医師の過失を認めた。

このケースでは、無呼吸時が50分続いたのちに気管内挿管が行われ、その後に自発呼吸があったために挿管後5分で抜管され、その後に呼吸状態が安定していなかった可能性がある、と評価され抜管の時期が適切でなかったと判断されているようである。新生児の蘇生については、バッグ・マスクでの換気、挿管のタイミングなどが問題になることが多いが、今日では、新生児蘇生についてガイドラインがあり、ガイドラインに沿った対応をしていたかどうかが争点になると思われる。

医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

この記事を書いた⼈(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。
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