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新生児の搬送のタイミングが遅かったとして医師の責任を認めたケース

横浜地裁 平成7年3月14日 判時1559号101頁
産婦人科医院において、稀な疾患である先天性食道嚢腫の新生児(3090g)が退院したのち、出生後16日目で2650gまで体重減少していた。医師は、栄養障害を見落として、状態が悪化して他院に搬入されてから気管・食道を圧迫していた嚢腫を発見されて摘出術を受けたが脳障害が残ったケース。医師には、患児の体重を想定し、哺乳力を検査するなど全身状態を精査し、緊急補液などの処置をとるか、精査・管理目的で直ちに設備の整った医療機関に転送すべき注意義務違反があったとして医師の責任を認めた。

原因となった先天性食道嚢腫は極めてまれな疾患で、このケースは当時日本初のケースだったといわれている。しかし、疾患の病名まではわからなくても、注意して診察していれば、体重が増加しておらず、慢性栄養障害があったと判断できたとして、医師に責任を認めている。

また、古い判例であるが、名古屋地裁 昭和59年7月12日 判時1145号94頁では、産婦人科開業医が、2320gで出生した未熟児に黄疸が出現したため、出生3日目に転院させる際、看護婦に付き添わせて患児家族の車で行かせ、一つの病院で受け入れ不能、次の病院に行くまでに1時間30分かかり、その間に呼吸困難に陥っててんかんの症状が残ったケースにつき、転院義務を怠ったとして医師の責任を認めた。現在ではあまり考えられない状況ではあるが、今日でも、転院先との連携が不十分のために受け入れ時間がかかったケースでは同じ問題が生じうる。

医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

この記事を書いた⼈(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。
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