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「産科医療補償制度」対象外の子どもの救済策になるか?!自民党の『1200万円案』

2023年06月26日 | コラム

2023年6月、自民党は産科医療補償制度でこれまでに個別審査を受けて補償対象外とされたお子さん達に、「特別給付金1,200万円を支給する案」をまとめました。
産科医療補償制度とは、出産時に何らかの事故で重い脳性麻痺になった子どもを対象に補償金3,000万円を支給する日本医療機能評価機構が運営する制度です。
もともと産科医療補償制度は発足当時から黒字運営で、運営金が余っていたのに支払われていないケースが多いのは問題だと指摘されてきました。
自民党の案の財源は、その運営で余っている余剰金から、対象となる約2,000人の家族に支払われるというものです。

指摘されていた制度の問題点

2009年に重度の脳性麻痺のお子さんとそのご家族の経済的な負担を補償するために産科医療補償制度が創設されてから10年以上経ちます。
しかし、給付の対象は「重い脳性麻痺」である1級、2級と限定された条件があり、さらに出生時の週数が28週以降に生まれたお子さんだけが対象となっていました。出産事故で障害を生じているのは同じなのに、救済される人とされない人がいるなんでおかしい、さらに、産科医療補償制度の運営自体は黒字で余剰金があるのに、なぜもっと支給幅を広げないのか、が問題になっていました。

補償対象基準の見直し

2022年1月、補償の対象外として支給されなかった家族たちの強い声を受けて、従来の基準の見直しが実施されました。
従来は妊娠28週から31週までの早期に生まれた子どもは出産時の事故以外でも脳性麻痺の可能性があるとして、2021年12月までは個別審査が必要だったのが、原則として28週以降に生まれた子どもも補償の対象となりました。
しかし、見直される前の基準で行われた個別審査によって対象外となった子どもにも、救済措置を作るべきだとしてまだ課題が残っているのです。

届いてほしい、当事者の声

今回、自民党は「産科医療補償」対象外の子どもに『1,200万円支給の救済案』を6月中にも厚生労働省に提案する方向で調整していますが、まだまだ公平な救済には不十分です。

愛知県内の当事者のお父様がNHKの取材に応じ、今回の救済案はまだおかしいところがある、と鋭く指摘されています。たしかに、救済案が作成されたことは一歩前進であるとして評価されていて、「子どもが大きくなればなるほど大変で、お金もかかってくるので補償が全然ないよりは一定の金額がもらえるのはありがたい」と仰っていました。しかし、お父様は「満額の3,000万円と1,200万円の差が生まれてしまうのはなぜなのかを説明してほしい」とお話しされていました。その通りです。実際に、お子さんは4歳になった今も、手足に麻痺が残り体を自由に動かせず、24時間ケアが必要な状態です。今後成長するにつれ、専用の福祉車両やお家のバリアフリー化などが必要になるということですが、貯蓄がなく不安を抱えている、と。本当に大変な毎日だと思います。

産科医療補償制度で支払われる補償金は3,000万円で、その内訳は600万円の一時金と、残りの2,400万円を分割で毎年120万円を20回、お子さんが20歳になるまで支払われるというものです。

(産科医療補償制度サイトより抜粋)

介護やリハビリはずっと続いていくのに、補償は20歳までで終わってしまうのです。脳性麻痺のお子さんを生涯介護していく大変さを考えれば到底足りない金額です。
であるにもかかわらず、今回の自民党の案では1,200万円という金額だけを支払うと言うのです。

ご家族の思いをきちんと受け止め、「何らかの制度上の問題があったということを国が認識して特別給付という方向で動いてくれていると思うので満額の3,000万円と1,200万の差が生まれてしまうのはなぜなのかを説明してほしい」という当事者の声が、政府に届いてほしいです。
今後の救済案の内容や進め方について注目していきたいと思います。

医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

この記事を書いた⼈(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。
産科医療ラボ