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がんの再発は見つけなければいけないのか?

2017年05月02日 | コラム

    結論からいうと、がんの再発は、早く見つけてもあまり意味がないことがある。近年、がんに関わる法律相談は年々増加傾向にある。なかでも、がんの見落とし相談は、分かりやすい問題であるため増えている。がんは早期発見・早期治療が重要だといわれているのは、診断が早いほど完治できる可能性があるからである。

 しかし、がんの再発は、そうではない。がんの再発は、初回の治療で適切な治療を行ったにもかかわらず、再度、同じ種類のがんが出現することである。この再発は、見落としといえるのか、は実は悩ましい問題を含んでいる。

 患者さんや家族は、再発したことを早く見つけてほしかった、早くCTを取っていれば、早くカメラをしていれば、等といわれて相談に来られることがある。弁護士からの相談でも、「再発の見落としがあった!」等という相談がある。しかし、がんを扱っている臨床医は、悪性度の高い遠隔転移、再発に見落としという概念は無い、と感じている。

 

根治不能の再発は、早く見つけても・・・

 医療法律相談では、再発についての患者・家族と医療者のギャップをいつも感じる。確かに、再発でも、根治できる局所再発は、早く見つけるほど良い。しかし、根治不能の再発は、早く見つけても予後がそれほど変わらないことを、臨床医は皆知っている。特に、別の臓器に再発した遠隔転移のパターンでは、根治はまず困難である。つまり、早く見つけて早く抗がん剤治療を始めても予後が変わらないタイプの癌では、早く見つけるメリットは乏しい。早く見つけても、抗がん剤の治療で辛い時間が増えるだけではないか、という臨床医すらいる。これを、見落としというのは難しい。

 「がんの再発を見落とされた」という相談を受けると、悲しい気持ちになる。がんと闘う患者さんと医療者の間にあるこの溝、法律相談ではさらに辛い事実を告げることになるからである。

医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

この記事を書いた⼈(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。
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