手術後に予想外のことが起こって死亡した50代男性のケース

「手術が終われば2週間くらいで帰れますよ!」と主治医からいわれたのに、手術後に大出血を起こして1ヶ月後に大学生の子供たちをのこして死亡した父。早期の大腸がんを切除して1ヶ月後には仕事に復帰するはずの大黒柱を襲った悲劇でした。2週間で帰れるといわれたのになぜ?何が起こったのか?家族は弁護士に相談に行きますが、病院に責任を問うのは難しいといわれます。諦めきれず、その後、知り合いを伝って当事務所に辿り着きました。

 カルテを見ると、早期の直腸がん、手術が無事に終わっていれば問題なく完治で来たはずでした。また、解剖結果から、通常の直腸がん手術では損傷するはずのない部分から術後に大出血を起こしていたことが判明しました。外科的には、定型的な直腸がん手術では、触るはずのない部位です。外科的に見て明らかにありえないところからの出血です。カルテを見た瞬間、手術の際に、本来触るはずのない部位を損傷し、その後出血を来したことが強く疑われました。外科的には明らかにおかしいことが分かっているのに、裁判では、裁判官になかなか伝わりません。丁寧に説明したつもりでしたが、病院側は細菌感染が起こって出血したと主張し、熾烈な主張と反論が繰り返されました。

 最終的には、地裁で原告敗訴。高裁で逆転勝訴で確定となりました。

 

なぜ手術に明らかなミスがあるのに裁判で負けるのか

地裁で原告敗訴になった原因は、様々な要因が考えられますが、原告側(当方)が裁判官の理解度を正しく把握できていなかったことにあると反省しました。手術の手技を説明する際には、おなかの中を実際に見たことがない裁判官に、おなかを開けるとどのような状態になっているのかの絵を描いたり簡単に説明したりしましたが、術野の想像をしてもらうことに苦労しました。また、身体の炎症反応は、大出血でも起こるのですが、裁判官は「熱がでて白血球が上昇していれば感染」というような単純な判断で、感染による出血だと断定してしまいます。また、裁判官は、一般人である患者側の正確な記憶よりも、医師の証人尋問での発言に影響されます。「手術傷に新たにできてきた肉芽(にくげ)からの出血だ」、などと医療の世界ではあり得ないような証言をしても、裁判官は、「肉芽」の読み方すら知りませんし、肉芽がどんなものかもわからず、そんなものかと信じてしまいました。当方の反省は、法廷で無言でうなずいている裁判官が理解していると思ったのが、誤りでした。

 裁判官にも分かるように、医療の現場で起こっている常識を、分かりやすく伝えられるかどうか、その能力が乏しければ裁判では負けます。患者側の記憶だけでは勝てません。客観的な証拠がなければ負けます。訴訟では、必ずしも真実が勝てるわけではない、という真実。

 

では、なぜ高裁判決で逆転勝訴に至ることができたか

 カルテを見て、手術中にどのような状況が起こっていたのか、外科医であれば、手術の上手・下手、起こった事実をある程度推測できます。実際に起こったことを、正しく伝えられずに敗訴となった一審を受けて、医師の証言に対抗するため、専門医3人の意見書で真実を語って証明し、高裁の裁判官が原告側の主張を真実だと認めてくれて逆転勝訴になりました。