乳腺外科・外科で乳がんを2年以上見落とされ治療開始が遅れて患者が死亡したことについて約1300万円の裁判上の和解が成立した事例

2021年07月19日 | 解決事例

医療過誤・医療ミス・問題解決事例

医療ミス・医療過誤の事案概要

北海道地方の総合病院において毎年、乳がん検診を受けていたががん見落としがあり2年以上経過後に乳がんの診断となったときには骨転移があり訴訟継続中に患者さんが亡くなったというケースです。

相談までの経緯

このケースでは、患者さんは、総合病院が行っている乳がん検診を毎年受けていました。しかし、マンモグラフィ(乳房を強く圧迫してレントゲン写真を取る検査)検査を受け、しこりができてきたと訴えていたにもかかわらず、良性のしこりだから大丈夫と診断され、生検を行なう時期が遅れました。乳がんと診断されたときには大腿骨への転移が発見され完治できない状況になっていました。訴訟前の交渉は、別の弁護士が行っていたが、病院側が見落としを認めず交渉が決裂した。訴訟の準備を行なうにあたり、専門的なアドバイスを受けたいとして、担当されていた弁護士から当事務所に連絡がありました。

乳がんの見落としとマンモグラフィ

乳がんは、今や女性の罹患率トップのガンになりました。10人に1人以上の女性が罹患する病気であり、検診も盛んに行われていますが見落としと思われるケースもあります。がんの見落としは乳がんに限らず相談が多く寄せられますが、特に乳がんの相談は多いです。このケースでは、患者さんは毎年総合病院の行っている乳がん検診を受けていたにもかかわらず2年以上にわたって見落とされていました。マンモグラフィの読影能力(レントゲン画像から乳がんを見極める能力)に疑問がある消化器外科医師が異常なしと判断していた画像には、乳癌を疑うべき影が写っていました。
乳がん検診のマンモグラフィ検査や超音波検査は、特定非営利活動法人「日本乳がん検診精度管理中央機構」(いわゆる精中医)によって、画像の撮影方法から検査方法、読影すべき医師の資格試験も行われ、マンモグラフィや乳腺超音波(エコー)検査の診断精度を一定に保つための不断の努力が行われています。マンモグラフィを撮影する放射線技師にも資格試験があり、マンモグラフィの画像を読影する医師は、この機構の認めた能力を持つ医師についてはホームページ上で医療機関の施設名や医師名も公表されています。
このケースでは、総合病院の医師にマンモグラフィ読影資格がなかったにもかかわらず読影を行わせて「異常なし」と判断させていたことが明らかになりました。
更に、乳がんを専門とする医師からすれば、明らかに乳がんのしこりであったにもかかわらず、胸の中心部分にあるから脂肪腫(良性腫瘍の一種で脂肪のかたまり)だといわれたことで安心していたところ、乳がんであり、すでに骨転移まであることが後で発覚しました。

相談から訴訟までの経緯

ご本人・ご主人の相談を受けた別の弁護士が、病院との交渉を勧めていましたが、病院側が責任を認めず示談交渉が決裂していました。訴訟のための準備をするということで、担当弁護士から訴訟手続きの協力を求めて当事務所に連絡がありました。

相談後の弁護士の対応

訴訟前に、入手できていなかったカルテの追加開示を行い証拠になるカルテを全て入手して、とくに問題となっていたマンモグラフィ画像について検討しました。毎年乳がん検診を受けておられたことから、経年的な乳がんの変化を遡って検討し、更に、複数の乳腺外科専門医に、事前情報なして、他のいくつかの画像と合わせて問題となったマンモグラフィを混ぜて読影をお願いしたところ、依頼した全ての乳腺外科専門医が、マンモグラフィ画像を「要精査」(精密検査が必要な画像所見:カテゴリー3)と診断しました。そのため、その時点のマンモグラフィ画像を「異常なし」と判断した病院の対応は明らかに「過失」があると判断しました。
更に、良性のしこりだと診断されていた時点の乳腺超音波画像も検討したところ、画像上の特徴から明らかに乳癌を疑うべき所見であることも判明しました。
これらの情報をもとに、裁判官に理解しやすいよう画像所見も加えた書面を作成し、マンモグラフィ検査や超音波検査の画像の読み方についても画像を示しながら、読影方法の基本を伝えました。また、協力医の意見書を複数回提出し、協力医の証人尋問を行い、実際の画像を元に、証人尋問において、病院側の医師と協力医同席にて実際の読影を行いつつ説明してもらい、どちらの読影方法が基本に忠実で説得力があるものか裁判官が理解できるよう務めました。
協力医の証人尋問直後に裁判所から和解の提案があり、ご遺族であるご主人も納得されたことから裁判上の和解に至ることができました。

訴訟の結果

裁判所の提案、約1300万円の和解を受け入れることで解決に至りました。裁判所からの提示金額は、死亡されたケースでしたが、死亡慰謝料(2000万円~2800万円)相当には至りませんでした。裁判所からは、1300万円程度の金額提示の理由として、乳がんが骨に転移していた時期がいつだったかは不明だが協力医の証言からすれば問題となった時点で骨転移していなかった可能性はある程度高いと考えられること、一方、乳がんステージⅣの予後を考えたとのことでした。ご遺族としては、裁判所が見落としを完全に認めてくれたことで納得され、長期に渡る紛争を早期に解決するため判決ではなく和解を選択しました。

富永弁護士のコメント

がんの見落としは、一般的に、患者さんやご遺族の思いを補償金・和解金に反映させることが難しいケースが多いです。その難しさは、見落としがなかった場合の、がんの進行度やステージを推測するための証拠が(見落として放置されているために)乏しい点や、がんは悪性度の異なる細胞の集まりであるために、進行を予測したり、逆算したりすることが非常に難しい点にあります。これに対して、医療機関側は、見落としたことを棚に上げて、「見落としがなかったとしてもすでに転移していた」等と主張してきます。
今回のケースは、がん見落としケースのなかでも全く責任を認めず、悪質で、マンモグラフィ読影資格のない医師に検診を行わせていたり、明らかに乳がんのしこりについて良性のしこりと説明したり、医師たちの能力の低さが目立ちました。依頼者は、裁判所が過失を認めてくれた点を非常に喜んでおられたこともあり、判決ではなく和解での解決に至りました。
 がん見落としの医療ミスは、医学的問題だけではなく、様々な法律的問題も孕む難しいケースが多いです。毎年検診を受けていたにもかかわらず2年以上見落としていた酷いケースで、2年以上前に正しく診断を行っていれば転移していなかった可能性は極めて高いケースでしたが、その立証は専門医が「転移はしていなかったはず」と答えてもなかなか難しいところがあると改めて感じたケースでした。
「見落としではないか」と思われたら、病院側が非を認めなくてもぜひ一度、医療を専門とする弁護士に相談されることをおすすめします。

代表弁護士・医師 富永 愛

この記事を書いた⼈(プロフィール)

弁護⼠法⼈ 富永愛法律事務所 代表弁護⼠
医師(外科) 富永 愛

医学部卒業後、民間病院で現役外科医として勤務しつつ医療専門に特化した富永愛法律事務所開設。現役医師・弁護士として、開設以来、医療過誤・医療ミスを専門に扱う事務所として、医療に関わる全ての法律問題を迅速に解決することを目指しています。病院・診療所・クリニック・介護施設・薬局・老健施設等、医療に関わる問題は、お気軽にご相談ください。