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TAVI(大動脈弁植え込み術)で人工弁を逆に挿入?!ありえない!

2024年03月15日 | コラム

香川県立中央病院は12日、大動脈弁狭窄(きょうさく)症の患者に行った手術で人工弁を逆向きに取り付けるミスがあり、その後患者が死亡したとして、遺族に慰謝料など2600万円の損害賠償を支払うと明らかにした。県は開会中の県議会に議案を提出した。病院によると、手術は2022年5月に実施。狭くなった大動脈弁の代わりに人工弁を取り付けたところ、血圧が急激に低下した。放射線技師が準備段階で人工弁を専用の機器に誤って逆向きに装着し、医師も最終的な確認を怠っていた。病院側は手術でのミスと死亡に因果関係があると判断した。同年11月に遺族から和解を受け入れる意向が示されたという(共同通信社2024.3.13)

TAVIとは

TAVI(Transcatheter Aortic Valve Implantation)は、「経カテーテル的大動脈弁植え込み術」を意味します。これまでは心臓血管外科による開胸手術が必要であった大動脈弁狭窄症に対する大動脈弁の置換術を行わず、カテーテルで治療ができる方法です。超高齢社会の今、大動脈弁狭窄症患者さんは多いため、福音のようにいわれています。

大動脈弁狭窄症とは

大動脈弁狭窄症(AS)は、心臓の左心室と大動脈の間にある「大動脈弁」が硬くなり、全身に血液を送り出す血流に障害が起こり心臓に負担がかかることで、進行すると息切れや胸の痛み、倦怠感や失神発作などの症状がみられるようになります。検査や診断には心電図検査、胸部X線検査、心エコー図検査などが用いられます。

なぜミスが起こったのか

TAVIは、心臓から大動脈が始まる部分にある弁の働きが悪くなり、心不全で亡くなってしまう患者に対し、体の負担が軽いカテーテル治療で弁を交換する効果があるとしてエドワーズ社という会社が開発した画期的な治療法といわれています。心臓が動いている状態で、カテーテルを使って人工弁を患者の心臓に装着する治療法ですので、人工弁を適切な方向で装着する事が必要になるはずですが、逆の方向に弁を挿入して、クリンプ(人工弁をおりたたむ作業)してしまった、という単純なミスがあったということだと思います。全国の医療機関でエドワーズ社による実施前の研修会が行われており「逆向きにクリンプしない様に」と説明していますが、この病院では、まさか本当に行われる事があるとは思えないようなことが、本当に起こってしまったということでしょう。事故直後から再留置までの細かな経過などが明らかになっていませんが、大動脈弁のところで閉塞してしまい、そのまま心停止してしまったとすれば、腎機能や肝機能障害が出現して、回復しないまま亡くなった可能性もあります。クリンプミスは、弁を入れる前に、手術室に搬入された透視(レントゲン撮影ができる装置)で動画のレントゲン撮影を行って確認することになっていますが、弁の方向を意識して確認しなかったのか、日常的に当然のこととして、医師が最終確認をしなかったのでしょう。確認工程がきめ細かく作成されているのに、無視した結果ということになります。

人間のやることに絶対はない、とは思いますが、指差し確認をするように、確認することをルール化しておけば避けられたミスです。「どうしてそんなありえないミスを犯してしまったのか」と考えてしまいます。手術に入っている医師、執刀医、助手の数名でもダブルやトリプル・チェックをする体制を作ることも、実施要件にする必要があります。

滞りなく実施されてこそ患者の福音となる治療です。手術より手軽に実施できるからといって、その手順を守らないというのは許しがたい単純ミスだと思いました。

医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

この記事を書いた⼈(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。
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