Home 9 解決事例 9 ステージ4の膵臓癌に対し実験的な手術として膵頭十二指腸切除術が実施され手術中に大血管を損傷して大量出血によって死亡したことにつき、病院側提示の金額から1.5倍以上増額でき和解に至ったケース

ステージ4の膵臓癌に対し実験的な手術として膵頭十二指腸切除術が実施され手術中に大血管を損傷して大量出血によって死亡したことにつき、病院側提示の金額から1.5倍以上増額でき和解に至ったケース

医療過誤の事案概要

近畿地方の国立大学付属病院で、手術が困難なステージ4の膵臓癌が肺に転移していたため化学療法(抗がん剤治療)を受けた60代男性の患者が、化学療法の効果が見られたため腫瘍が小さくなったとして、実験的なコンバージョン手術を勧められました。コンバージョン手術とは、転移などによって根治切除不可能となった進行性の癌に対して抗がん剤による化学療法を行って腫瘍が縮小した後に、根治の可能性は低いものの、可能性をかけて切除をする手術です。がんの影響によって膵臓の周りは膵炎による癒着も強く、手術中に癒着していた門脈周囲を剥離しようとして門脈という大血管を損傷させて大量出血し、患者は亡くなりました。

法律相談までの経緯

ご遺族は、患者が亡くなったのは医療ミスではないかと考えて、病院に対して責任を認め、補償を請求していました。しかし、病院側からは余命が短かったことなどを理由に低い金額提示しかされず、納得がゆかないご遺族が当事務所にご相談に来られました。病院の実施した院内事故調査報告書はありましたが、カルテの入手などがまだだったため、まず当事務所でカルテ開示の方法やコツについてお伝えして、病院から漏れなく必要な資料が入手できるようサポートを始めました。

相談後の対応

病院側との話し合いは、ご遺族が自ら進めてみたいとのご希望だったため、当事務所ではご遺族の交渉内容をお聞きして、相手方弁護士の考えや示談交渉でのポイントをお伝えしながら、何度か法律相談を重ねました。ご遺族が、自らの交渉に限界を感じた際にはいつでも代理人として交渉をするとお伝えしていましたが、最終的にはご遺族自ら病院側が提示した1000万円よりも増額した1700万円に至ることができ、病院からも正式な謝罪があり、様々な意味でご遺族が納得した形で和解に至ることができました。

弁護士のコメント

この患者様は、ステージ4の膵臓癌という極めて厳しい状況の中、抗がん剤治療を乗り越えられたところで、必要のないコンバージョン手術を勧められ、外科医の話を信じてしまったために実験的な手術の途中で大量出血を起こして亡くなりました。先日、岐阜県の病院で術中大量出血を生じたケースと同じ、「門脈」の損傷です。門脈という血管は、聞き慣れないものかもしれませんが、お腹の中にある大動脈や、下大静脈等と同じくらい太く重要な静脈の一つです。「門」という名前があるのは、お腹の中の血流の関所となる静脈だからです。肝臓の中心部分を通る門脈はお腹の手術において非常に重要な血管ですので、どのような癒着状況にあるのかということを、外科医は手術前に造影CTなどの画像検査をもとに想像し、術中の出血も予期していたはずです。コンバージョン手術は、わずかな可能性にかけた、実験的手術ですので、無理をして血管を傷つけるようなことがあるなら、積極的に攻めずに撤退することも考えなければいけません。このケースでは、根治の可能性が低い、もともとガイドラインなどでは推奨されていない手術を勧めた上で、手術中に予想できたはずの門脈損傷を起こして、患者様に残されたご家族との有意義な時間を奪ってしまいました。当事務所に相談に来られるまで、ご遺族は「実験的手術をされた」ということすら知らされておられず、衝撃を受けておられました。

幸いなことに、院内事故調査として関わられた別の大学病院の先生が、問題点を鋭く指摘されたことで病院側としてはミスを認めざるを得なくなりました。まだまだ、患者から見て公平公正な院内事故調査はごくわずかで、当方が見てきた限りでは8割以上の調査が病院を擁護するものです。今後の医療をより良くするためには、きちんと院内事故調査が行われる必要があります。某大学病院の医療安全に関わる教授が外部委員として関わった調査報告は、全て擁護的な調査結果になっています。しかし、このような実態は、院内事故調査に関わった委員の名前や、調査内容が完全に公開されない限り闇の中です。ある3つの大学病院は、三つ巴になって院内事故調査をお互いに行っています。表面的には、忖度のない外部の委員を選んだ、ということになっていますが、3つの病院が結託すれば、いかにも相互に第三者的な外部委員を派遣したような形を作ることは簡単です。同じ大学病院の複数の院内事故調査報告書を見ていれば、なれ合い的に擁護しておられる関係性や、だれが関わると「ことさらに擁護的な結論になっているか」という真実も見えてきます。

一方、お互いに忖度し合う体質の日本の医療業界の中でも、本気で今後の医療を良くしようと奮闘されておられる先生方は(まだまだごく少数派ですが)おられます。忖度ばかりの業界の体質は、そろそろ患者様やご遺族にも見え始めています。学会や院内事故調査制度がその片棒を担いでいれば、学会の存在意義や信頼性も揺らぐという危機感を持っておられる大学教授もで始めています。ミスは起きます。しかし、ミスを認めなければ、ミスは永続的に繰り返されるのです。声を上げ始めた先生方の活動は、日本の医療の希望の星です。今回の報告書も、ガイドライン違反であることを明確に指摘する勇気を持った先生がおられたお陰で、比較的公平な内容となっていました。どの先生が、鋭く指摘されたのか、明確には書いているわけではありませんが、行間から透けて見えました。

今回のケースは、当方が直接病院と交渉するまでもなくご遺族が自ら交渉をされました。最近は医療ミスの被害者となった御本人やご遺族が病院と積極的に交渉されるケースも多くなってきました。今回のご遺族は、知識のない弁護士さんよりもよほど詳しく病気についても損害についても調べておられ、納得がいかないことも明確に整理して法律相談にいらっしゃったため。短時間で非常に有益な法律相談が可能となりました。

今回のようなご遺族が自らで交渉されるという選択肢も、ご遺族のために残された方法だと思います。弁護士に依頼することだけが正しい選択肢とは限りません。ご遺族が医療ミスに命を奪われたという辛い事実を、どう受け止めてゆくのか、弁護士による交渉や裁判手続きは、これからを生きていく御本人やご遺族のための一つのステップだと思っています。

解決事例

医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

この記事を書いた⼈(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。
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