❷医療ミス・医療過誤を起こした医療従事者の責任

~医療従事者たちはミスをしても働いている?~

医療ミスを犯した医師がなぜまだ医師として働いているのか?信じられない。という相談をよく受けます。医師、助産師、看護師など、医療従事者は医療ミス・医療過誤を起こしても、ただちに医師免許などを剥奪されることはありませんし、刑務所に行くことになったり、資格を失ったりする手続きは別の手続きです。
医療ミス・医療過誤に関して、テレビやインターネットの報道で頻繁に見聞きされるのは、患者が裁判を起こしたというニュースだと思います。これは、民事上の損害賠償請求を医療機関に対して行う(民事訴訟)の手続きです。つまり、患者側は、医療ミス・医療過誤の被害者と考えたときに、受けた損害を金銭に換算して賠償を求める、民事裁判を起こすことができます。
一方、医療ミス・医療過誤を起こしてしまった医療従事者が、懲役、罰金などの刑罰を決めるための刑事裁判を受けるかどうかは、民事裁判とは別の手続きで決まります。
刑法211条には、「業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。」と定められていて、医療従事者が医療ミス・医療事故を起こしてしまった場合は、この「業務上過失致死傷罪」に該当することがあります。ただ、「業務上過失致死傷罪」に該当するかどうかは、検察官が決めますので、被害者が問題だと考えても、必ずしも刑事裁判を受けることになるわけではありません。
警察が捜査した事件について刑事裁判を起こすかどうかは、事件の加害者の性格、年齢、境遇、犯罪の軽重、情状、犯罪後の状況等を考慮して検察官が決めることになっています(刑事訴訟法247条、248条)。
有罪になる可能性が高い事件についてのみ、刑事裁判を起こされるため、民事責任に比べると、ごくわずかなケースに限られます。
また、刑事裁判を起こされて有罪になったとしても、罰金刑だけの可能性もありますし、懲役刑になっても執行猶予と言って一定の期間、刑を執行されず、何事もなく執行猶予期間が経過すれば、刑を受けなくてもよくなる制度がありますので、刑務所に行くことになって仕事ができなくなる可能性は極めて低いのが現状です。 
また、医師など医療従事者が資格を失うかどうかも、民事裁判とは別の手続きです。
たとえば、助産師・看護師が医療過誤事件を起こした場合、保健師助産師看護師法14条によって、行政責任を問われる可能性があります。
保健師助産師看護師法14条によると、助産師・看護師が「罰金以上の刑に処せられたとき」に、厚生労働大臣は、戒告、3年以内の業務の停止、免許の取消し、のいずれかの行政処分をすることができます。
医療過誤事件で業務過失致死傷罪に該当し、罰金以上の刑に処せられた場合は、行政処分の対象となり得ます。
ただし、実際に、行政処分が行われるのは、罰金以上の刑に処せられた事案の中でも、放火、ひき逃げなど、生命、身体を守るべき助産師、看護師の資質を疑うような犯罪類型に限られているのが現状です。
保健師助産師看護師の行政処分の考え方について、例えば、平成17年7月22日開催された、医道審議会保健師助産師看護師分科会看護倫理部会では、以下のとおりとりまとめられています。
「医療過誤は、様々なレベルの複合的な管理体制上の問題の集積によることも多く、一人の看護師等の責任に帰することができない場合もある。看護師等の注意義務違反の程度を認定するに当たっては、当然のことながら、病院の管理体制や他の医療従事者における注意義務違反の程度等も勘案する必要がある。なお、再犯の場合は、看護師としての資質及び適性を欠くものでないかどうかを特に検討すべきである。」
このような行政処分の現状からは、医療事故事件を起こして訴えられても、直ちに行政処分を受けて資格を失うことにはならないと言えます。

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代表弁護士・医師 富永 愛

この記事を書いた⼈(プロフィール)

弁護⼠法⼈ 富永愛法律事務所 代表弁護⼠
医師(外科) 富永 愛

医学部卒業後、民間病院で現役外科医として勤務しつつ医療専門に特化した富永愛法律事務所開設。現役医師・弁護士として、開設以来、医療過誤・医療ミスを専門に扱う事務所として、医療に関わる全ての法律問題を迅速に解決することを目指しています。病院・診療所・クリニック・介護施設・薬局・老健施設等、医療に関わる問題は、お気軽にご相談ください。