Home 9 コラム 9 乳房が真っ赤になった、炎症性乳がんの見落としは医療ミスか?

乳房が真っ赤になった、炎症性乳がんの見落としは医療ミスか?

2017年03月30日 | コラム

乳がんはしこりができるだけではありません。頻度は低いですが、炎症が起こっているよう乳房が真っ赤に腫れて乳房全体にひろがっていく炎症性乳がんというタイプがあります。乳がんはしこりができる、と思われることが多いためなかなか診断がつかない場合も多いです。患者さん自身も、赤くなって腫れてきたことを乳がんだと思わず、皮膚科や外科などに行って抗生物質をもらったけれどもよくならない、というパターンも多いです。

炎症性乳がんは悪性度が高い?

炎症性乳がんは、他のタイプの乳がんに比べて悪性度が高く、乳がんだとわかった時点で一定程度の広がりがあることが多いため、全身に乳がんが広がっている可能性も考えて、全身への治療である抗がん剤をまず行います。その後、手術で摘出することに意味があると判断されれば手術や放射線治療も行われ、抗がん剤(化学療法)、手術、放射線を組み合わせた集学的治療が必要になります。手術の方法についても、べったりと広がることが多く、皮膚を広範囲に切除することが必要になることから術後の整容性や腕の可動域制限なども考慮する必要があります。ほかのありふれた乳がんとは違う配慮が必要になります。

炎症性乳がんと医療ミス?!

このような炎症性乳がんの特徴を考えず、化学療法をする前に手術をしてしまい、その後炎症性乳がんで皮膚に広く広がっていることがわかったケースがあります。当初に手術では取り切れていなかったことが後からわかり、再手術では広範囲な皮膚切除をするため、取り除いた皮膚のところに、太ももの皮膚の移植などが必要になり、整容性も低くなってしまいました。当初から炎症性乳がんであることがきちんと診断できていれば、まず抗がん剤による治療を行って、効果があれば、1回の手術で整容性にも配慮して手術ができたはずでした。
あまりに悲しい姿になってしまったことから診断した医療機関と交渉の末、500万円前後の和解となりました。
珍しい病気では、標準的な治療がどのようなものか、患者さんにはわかりにくいことが多いです。自分が適切な治療を受けられていたのか、仕方がなく今の状態にあるのか、疑問を持たれたのが出発点であったケースでした。

医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

この記事を書いた⼈(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。
産科医療ラボ