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あやまる病院と、あやまらない病院

2017年06月19日 | コラム

手術の前に説明を受けていたことと異なる結果になったときに、患者本人や家族は医療機関に不信感を抱きます。言っていたことと違う、何かあったに違いない、と。その際、心ある病院では、患者さんや家族に対してどのような経過で予想外の経過になったのかを説明します。

そこで良くあるのが「このような結果になってしまって申し訳ないと思っています。」という謝罪の言葉です。多くの患者さんや家族は、病院側がミスを認めて謝ったのだ、と理解します。

しかし、その後病院側と、生じた事実について確認をしていくと、多くの病院では「起こった結果については、○○が原因ではないかと思います。」等と、患者さんの今までの病気や、血圧の高さ、年齢、血管のもろさ等が原因であったかのような説明になっていくことが多いです。法律相談で患者さんや家族とお話ししていると、謝ってもらえたことで納得される方も多いです。ただ、「謝ってもらった」≠「医療機関側が責任を認めた」です。

医療機関側が本当に責任を認めて生じた結果について責任を負うとするには、と考える場合には、起こった結果についての賠償責任の問題になります。法律的な問題になるため、病院の顧問弁護士や病院側からの依頼を受けた医師会等の専属の弁護士が賠償についての話し合いを求めてきます。

反対に、このような法律的な対応ではなく、病院側からの「申し訳なかったことに対するお見舞い金」というような話で数十万円程度の提示があった場合には、賠償責任までを認めるわけにはいかないけれど、この程度の金額で和解をしてほしい・・・・という気持ちの表れです。

患者さん側に立つ弁護士としては、数十万円でうやむやにしようとする医療機関の態度に承服できない気持ちになることもありますが、紛争をいかに解決するかは、患者さんや家族の思いが最も重要です。御依頼者の気持ちに寄り添って紛争を解決する方向で進めようと心掛けています。

謝らない病院の背景には・・・

上記のように、患者さんや家族に一定の配慮を見せて「あやまる病院」が増えています。しかし、今でも、何か問題があったことが明らかであっても「責任は無い」「うちは悪いことをしていない」と責任を全く認めない医療機関もあります。患者側弁護士から見ると、謝らないこと自体、紛争解決を困難にする非常にリスキーな対応だと思いますが、病院の事情も色々あります。例えば、主治医が責任を認めていない、という場合以外に、責任者(部長、科長など)が責任を認めない、病院として責任を認めない方針、加入している保険会社(医師会や保険医協会など)の委員が責任を認めない方針、のケースなど、謝れないような背景事情としては、様々な要因が考えられます。患者さんや家族は、主治医に謝ってほしいだけなのに、と思っていて(主治医も謝りたいと思っていても)このような大人の事情が絡み合ってきて、患者や家族はより傷つくことになるのです。

医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

この記事を書いた⼈(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。
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