産科・脳外科・脊椎外科・手術ミスに特化した
医療過誤問題の法律事務所

弁護士法人富永愛法律事務所弁護士法人富永愛法律事務所

医師弁護士による医療過誤の法律相談
⼤阪府・全国対応/ZOOMにてオンライン相談も承ります
弁護士法人富永愛法律事務所弁護士法人富永愛法律事務所
医師弁護士による医療過誤の法律相談
  • お問い合わせフォームでのお問い合わせはこちら
  • ホーム
  • メニュー
Home 9 コラム 9 胸が痛い!心筋梗塞の見落としは医療ミス?

胸が痛い!心筋梗塞の見落としは医療ミス?

2026年07月16日 | コラム

何かわからないけれど体調が悪い・・・そんな症状でも、心臓の怖い病気、心筋梗塞(しんきんこうそく)のことがあります。
心筋梗塞とは心臓に流れている血液の流れが、血管が細くなったり詰まったりすることでうまく流れなくなり、器械的に動いているはずの心臓がうまく動かなくなってしまう病気です。
突然、症状が出ることもあり、放置するといずれ心臓が止まってしまい死に至る怖い病気です。

つい先日も、救急車で搬送されたのに対応した医師が心筋梗塞のサインであることに気づかず、「異常はない」と言って家に帰る様に言われてしまい、家でもっと体調が悪くなってしまって次に救急車を呼んだ時には手遅れになってしまい患者さんが亡くなってしまった、というご相談がありました。

心筋梗塞は、典型的な症状としては「胸痛(きょうつう)」つまり、胸のあたりが痛いという症状が急激に起こることだといわれています。
しかし実は、重篤な病気ほど、典型的な症状ではない非特異的な症状、つまり色々な体調の悪さが出てくるといわれています。

実は、胸が痛い、という症状の原因は、心臓だけにとどまりません。
・狭心症(きょうしんしょう)や心筋梗塞(しんきんこうそく)
・心膜炎(しんまくえん)や大動脈(だいどうみゃく)に関する病気
・肺塞栓(はいそくせん)・気胸(ききょう)・胸膜炎(きょうまくえん)などの呼吸器疾患
・逆流性食道炎や食道けいれんなどの消化器疾患
・肋軟骨炎や肋間神経痛といった胸壁の痛み
・不安発作などの精神的な病気 に至るまで幅広くみられる症状です。

見た目には訴えや症状が似ているからこそ、最初から原因を一つだと決めつけずに、「生命に危険なものから順に除外していく」という思考のプロセスを踏む方が安全だといわれています。

相談に来られたご遺族は、初めに体調の悪さを訴えて救急車で運ばれているのに、担当した医師から「こんなことぐらいで救急車を呼んだのか?」などと酷いことをいわれ、許せないとおっしゃっていました。

カルテなどを検討すると、初めに救急車を呼んだ時にも、一時的な意識消失があって倒れていたというエピソードもあり、異常がないとはいえない状況でした。
救急車を呼ぶ、ということを安易にする方は少ないと思います。
「これは!何か重大な異変がある!」と本人や周りのご家族が思うからこそ自家用車ではなく救急車を呼ぶのであって、救急車を呼んだ、という事実があります。
私達のような弁護士が、裁判官と話していても、やはり救急車を呼んだという事実は、患者さん本人が重篤で命にかかわると感じた、という事実だと評価されやすいと思います。

心筋梗塞の可能性が少しでもあるなら、救急外来でまず行うべき検査は「心電図」です。実は、心電図には簡易的なものと、しっかりと心臓の動きを評価できる「12誘導心電図」があります。
「12誘導心電図」というのは、両手足と胸に計10個の電極(シール)を貼り、心臓の電気的な活動を12種類の異なる角度から記録する最も一般的な心電図検査です。
心筋梗塞が起これば、この検査に何かの異変が現れることが多いのです。
機械的な波形にも意味があり、ST(エスティー)といわれる波形部分が正常よりも上がっていれば、典型的な心筋梗塞ですが、正常より下がっているときにも心臓の壁の一部に酸素が十分に言っていないサインになります。
症状がなくなって「もう胸は痛くない」という状態になっても、心電図では、わずかなサインを捕まえられることがあるのです。

ご相談に来られた患者さんの場合には、心電図検査は行われていました。それなのに、心電図に示されていたサインを読み解く能力が医師に足りなかったのです。
心筋梗塞はST上昇しているときだ、という典型例しか知らなかった医師は、大丈夫だと安易に考えて患者さんに伝えてしまい、帰る様指示してしまいました。

心電図以外にも、問題になるのは患者さんからの問診です。
高血圧・脂質異常症・糖尿病・喫煙・家族歴・年齢・性別といったリスクがないかを確認し、聴診で大動脈弁狭窄症の雑音(これも胸痛の原因になる狭心症のサインのこともあります)、貧血や心不全の徴候を診ます。
呼吸が苦しい、息がしにくいという症状は、心臓と関係がないと思われがちですが、心臓の働きが落ちると、肺に水が溜まって呼吸が苦しい、という症状になることもあります。
全ての臓器は関連しているので、患者さん自身が関係ないと思っている症状を組み合わせると、全てがつながっていくこともあるのです。

心電図以外にも、心筋梗塞を表すサインは血液検査に現れることもあります。「トロポニン検査」といわれるものです。
トロポニンというのは、心臓の筋肉細胞(心筋細胞)の中に含まれているタンパク質の一つです。正常の場合には、血液中にはほとんど存在しないですが、心臓の細胞が何らかの原因で破壊されると血液中に漏れ出し、心臓の危険なサインを表してくれます。
血液検査でこのトロポニンが検出(陽性)になると、心筋に何かの異常があったということがわかるのです。簡単に言えば、心臓にうまく血液が流れなくなる心筋梗塞で、心臓の細胞が少し壊れただけであっても、細胞から流れ出したトロポニンを見れば、何か異変があったな、ということがわかるのです。
医者なら、トロポニンを測りたくなるほど心配になったら、その時点で救急搬送の対象ですし、救急車で来た患者さんを自宅に帰すなど言語道断だと考えた方がよい、といわれています。

例えば、循環器内科の専門医の先生は、研修医や心臓を専門にしない先生に向けて
『心電図を一枚撮って正常だったから帰宅という判断だけは避けなければならない』と発信しています。

重要なのは「心電図一枚」と「トロポニン検査一回」が正常だからといって、心筋梗塞を除外できないし、除外の根拠にはできないというところにあります。心筋梗塞では、発症直後には心電図での波形がまだ大きく変化していないことがあるからです。STが上昇しない型の心筋梗塞では、しばらく心電図が正常のまま経過することも珍しくありません。
実は、心電図を見ると、心臓のどの部位に異変があるのかがわかります。心電図を読める先生ならわかる、と言った方が正確かもしれません。
例えば、心臓の心筋梗塞の部位が心臓の前の方にある前壁梗塞(ぜんぺきこうそく)では心電図異常が見えやすいですが、後ろの背中側の壁、後壁梗塞(こうへきこうそく)などは循環器専門医でなければ、心電図だけでは読影が困難な場合もあるといわれています。

血液検査のトロポニンも万能ではなく、血液検査で異常が出るまでに、すこし時間がかかることがあります。症状が出た時間を患者さんから聞きとり、検査をした時間がどのくらい後なのか、というところまで確認しなければならないということです。

体調不良の様子や症状が続いているなら心電図を繰り返し取ってみたり、トロポニンをもう一度測定するなどして経過を追って観察する必要があります。トロポニンを何回かとりたいな、と思うような状況自体、患者さんの命に係わる心筋梗塞かもしれない、という状況だということです。
循環器内科のドクターは、「確定診断に至らない状況で搬送することに抵抗がある先生もいるかもしれませんが、循環器内科医は心筋梗塞などの急性冠症候群ACS治療を得意とする専門医の集まりですから、喜んで搬送を引き受けてくれるはず」だといいます。

実は、当事務所にご相談があった患者さんが救急搬送された病院も、循環器内科医が複数いて、心臓のカテーテル検査を得意分野の一つだと謳っている総合病院でした。それなのに、自分の病院の循環器内科医に心電図を見てもらうこともせず、自分だけで心電図を見て大丈夫だと判断して、患者さんを帰宅させてしまったのです。一番残念に思っているのは、その病院の循環器内科の先生達だったのではないかと思いました。

救急外来では、様々な症状の患者さんが来ます。救急を担当する医師は、命にかかわる病気を見逃さない、ということが一番重要です。専門家がいない病院なら、「迷ったら送る」が鉄則だともいわれています。危ない胸痛とは、命に係わる病気を含んでいますから、「少し様子を見る」という選択肢はない、ということです。とにかく、心電図を迅速にとって、患者さんから話をよく聞き、症状や所見をキャッチして、血圧や脈拍などのバイタルサインをチェックしたら、専門家に判断を仰ぐ必要があるのです。記録した心電図と気づいた所見を、搬送先に引き継げば専門家集団が評価も含めて行ってくれるからです。

逆に、ドクターの間では「絶対にしてはならないこと」も明らかだといわれています。

胸が痛い、という症状があったのに、
①大動脈解離を否定しきれない段階で抗血栓薬を使わないこと
②症状がいったん軽快したことを帰宅の理由にしない
③心電図一枚が正常だからといって除外しない
医療ミスの相談には、この3点から外れているようなご相談がたくさんあるのです。
循環器内科のドクターは、「この3つさえ守っていれば、最悪の見逃しは防げるはずだ」と言っています。

「急に始まった胸の痛み」は、何かの診断をするより先に、死に至る病気が含まれている可能性を常に考えて判断することが求められています。「即座に行動すべき胸痛」だということです。
突然始まって安静にしても体調が悪いままで症状が楽にならないとか、冷汗や息苦しさ、失神を起こしたというような胸の痛みは、心臓の専門家が扱うべき病気のサインだということです。
つまり、このような状態だったのに見逃されてしまって寝たきりや死亡になってしまったケースは、医療ミスという可能性も高いということです。

 「危ない急性胸痛に、外来での経過観察という選択肢はない!」
これは循環器専門医の先生の言葉ですが、医療専門の弁護士としても全く同感です。

 

医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

この記事を書いた⼈(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。
産科医療ラボ