❻医療ミス・医療過過誤訴訟に必須の証拠、「カルテ」はどうすれば⼿に⼊る?

裁判を起こして裁判所(裁判官)に請求を認めてもらうには、必ず「証拠」が必要です。
裁判では、ある請求を裁判所に認めてもらいたい人(原告)が、請求を受ける人(被告)に対して、その請求をする権利を持っていることを証拠によって立証する活動が必要です。
請求の内容は、一般的な事件でも、貸したお金を返してもらう権利、貸した不動産を明け渡してもらう権利など、事案によって様々です。
医療ミス・医療過誤訴訟でも、被害を受けた患者が、医師や病院に対して、損害を賠償してもらう権利の具体的な内容は、個別に詳細に検討する必要があります。この権利を持っていることを証拠を示して立証します。
医療過誤訴訟で証拠として最も裁判所が重視するのは、カルテや画像(診療記録・情報)です。
診療記録・情報には、通常、医師がいつどのような診療をしたか(診療録)、看護師がどのような処置をしたか(看護記録)、手術の内容はどのようなものであったか(手術記録)、検査の結果はどうだったか(検査結果報告書)、など、患者様の診療経過が詳細に記録されているからです。
しかし、請求をする者も契約書など自分の権利を示す資料を持っている不動産の賃貸やお金の貸し借りといった一般的な事案とは異なり、医療過誤事件では、カルテや画像(診療記録・情報)を持っているのは、医師・病院です。
そのため、患者側としては、裁判を起こす前に、カルテや画像を適切に入手して検討しておく必要があります。

1 最初におすすめしたい手続き~患者ご本人・ご遺族からのカルテ開示請求~

カルテ(診療情報)を手に入れる方法として、まずおすすめしたいのは、患者様ご本人やご家族から、病院にカルテ開示請求をすることです。
近年では、厚生労働省からの通達に沿って、カルテ開示に協力的な病院も増えてきており、カルテ開示請求の方法を問い合わせると開示請求の用紙をもらえたり、手続きを詳しく教えてもらえることもあります。患者様ご本人が手続きできないご病状の場合や、お亡くなりになっているときは、ご家族から請求していただくことができます。
郵送での取り寄せや代理人からの取り寄せにも可能なところが増えてきましたが、対応していない病院もありますので、事前に問い合わせていただいたほうが良いと思われます。
病院や診療所には、5年間カルテ(診療録)を保存しなければならない義務があります。しかしこの期間は、5年ですので、できる限り早めに手続きをしなければ、任意のカルテ開示に応じられない、といわれることもあります。交渉や訴訟をするに当たり、最も重要な証拠はカルテですので、早期に全てを入手しておく必要があります。
なお、病院によっては、電子カルテを使用している場合など、最初の記載から最終版に至るまで、どのような加筆、修正が行われたかを示す、「加筆・修正履歴」も開示してもらえることがあります。
加筆、修正の履歴が開示されると、病院に不利益な記載が削除された経過なども明らかにすることができます。ご自身やご家族でカルテ開示をしてみようとお考えの方は、是非、「加筆・修正履歴」を含むカルテ(診療情報)をできるだけ問題となった全ての期間の分、請求されることをおすすめします。

2 患者様ご本人からでは十分なカルテ開示が受けられないとき~証拠保全~

患者様ご本人から請求をしていただいても、何らかの理由で一部しか開示されないことや、加筆修正履歴が含まれていないこと、最も重要な画像がないことなど、必要なカルテの全てが開示されないこともあります。
当事務所でそのようなご相談をお受けした場合は、カルテを短時間で検討し、本来あるべき文書や足りない部分を直ちに特定することができます。ご本人やご家族に不足のものを再度カルテ開示請求をしていただくこともできますし、弁護士として再開示を行なうこともできます。それでも全てのカルテ開示が受けられない場合には、裁判所を通じた「証拠保全」という手続きを検討することになります。
「証拠保全」とは、裁判所を介してカルテを入手する手続きです。
医療ミス・医療過誤事件では、「カルテ」「診療情報」という「証拠」が、裁判を起こす前に捨てられたり、書き換えられたりしないように、患者側が裁判所に「保全」を申し立てます。
「保全」とは、裁判官や裁判所の職員が、病院に行って、診療情報をコピーすることです。
病院側には、保全の申立や手続きが行われていることを、知らせずに手続きを進めます。病院側は裁判官たちがやってくる当日まで知らされませんので、コピーされる前にカルテ・診療情報を捨てたり、書き換えたりすることができません。
保全の対象を特定するときには、ご本人やご遺族によるカルテ開示請求の場合と同様に、すべてのカルテ・診療情報を対象とし、加筆・修正履歴を含むものとする必要があります。
保全の申立は、手続きや書類の準備などが煩雑であるため、弁護士に依頼されるケースがほとんどです。
 保全手続きは、時間も費用もかかり、患者様のご負担となるため、当事務所では、まず病院や診療所が「紙カルテ」か「電子カルテ」を使っているかを確認し、改ざんの恐れが少ない電子カルテだと判断した場合には、ご本人・ご遺族でのカルテ開示請求をしていただくことを原則としていますが、カルテ開示に対して病院が適切に対応されない場合などは、カルテ開示手続きから、弁護士としてご依頼をお受けしておりますので、ご遠慮なくお問い合わせください。

ここまで読んでいただけば、カルテ開示と証拠保全の現状を知っていただけたと思います。残念なことですが、ご本人やご遺族から詳細な経過や電子カルテかどうかを聞く前に、すぐに「証拠保全」が必須であると説明をされる弁護士さんもおられます。そのような方は、現在のカルテ開示や証拠保全手続きを十分ご存知ではない可能性があります。事件の内容について検討する前に証拠保全を勧められたときには、ご注意下さい。

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解決事例

代表弁護士・医師 富永 愛

この記事を書いた⼈(プロフィール)

弁護⼠法⼈ 富永愛法律事務所 代表弁護⼠
医師(外科) 富永 愛

医学部卒業後、民間病院で現役外科医として勤務しつつ医療専門に特化した富永愛法律事務所開設。現役医師・弁護士として、開設以来、医療過誤・医療ミスを専門に扱う事務所として、医療に関わる全ての法律問題を迅速に解決することを目指しています。病院・診療所・クリニック・介護施設・薬局・老健施設等、医療に関わる問題は、お気軽にご相談ください。