Home 9 メディア掲載 9 弁護士 富永愛が担当した医療訴訟の判決が医療判例解説(医事法令社・2023.8.15発行・105号)に掲載されました。

弁護士 富永愛が担当した医療訴訟の判決が医療判例解説(医事法令社・2023.8.15発行・105号)に掲載されました。

2023年08月28日 | メディア掲載, 新着情報

(医事法令社 https://www.izi-hourei.jp/index.htm

弁護士 富永愛が担当した、京都地裁令和4年3月9日判決が医療判例解説の特集事例No.1として掲載されました。

「開頭術後、鼻血の止血や気道の確保を行わず経過観察のみとし、患者が急性呼吸不全となったのは注意義務違反があったからとして損害賠償を求めた事例」

事例の概要

頭痛の症状を訴えて総合病院の時間外外来を受診した患者さんは、頭部CT検査の結果、脳内出血があり入院することになりました。
担当医師は、MRI検査で左側頭部内血腫の増大を確認し、患者さんに不穏な行動が見られたため、患者さんに対して開頭血腫除去術を実施しました。

手術後、患者さんには胃管(鼻から胃まで通すチューブ)等の出し入れで鼻出血がありましたが、自分で点滴を抜こうとするなどの体動が多かったことから鎮静薬であるプロポフォールが投与されました。鼻出血は血液が咽頭へ垂れ込み、プロポフォールによる鎮静中であることから呼吸不全となる恐れがあるため、呼吸状態など容態の変化には特に注意が必要でした。

夜間の当直医、看護師に勤務が交代された後も患者さんの鼻出血は続きました。看護師によって喉に溜まった血液の吸引などが実施されましたが、その際に凝血塊と呼ばれる血のかたまりがありました。凝血塊は窒息の危険性があり、長時間多量の鼻出血が続いていることから、この時点で気道確保のための気管内挿管、止血の処置を実施するべきところ、当直医は経過観察の指示しか出さず見に行くこともありませんでした。手術から約9時間後の午後10時30分ごろ、酸素飽和度を示すSpO2が90%まで低下(通常は96%以上)、酸素投与量を増やすなどしましたが、翌午前0時過ぎには一時SpO2が30%台まで低下し、はじめて医師が到着した時には呼吸停止および心停止の状態でした。
バッグ・バルブ・マスク(アンビュー・マスク)による換気、心臓マッサージが行われましたが、患者さんは急性呼吸不全により亡くなりました。

掲載された際の「専門医のコメント」を読んで

■脳神経外科医のコメント
「吸引から1時間後も引き続き血液貯留している午後10時30分時点では、気管内挿管を実施すべきであり、当直医はこの時点で対応をするか、看護師も当直医が対応できないのであれば執刀医に連絡してもよかった」

全身麻酔による手術を受けた後の患者さんに対して、少しの変化も見逃してはならない状況であるにもかかわらず、止まらない鼻出血に対して何回も看護師からコールをされたのに、病室に行くことすらしなかったドクター。十分な治療を行うこともなく、気道の確保をせず失血性ショック、呼吸停止に至るまで医師が対応することなく、経過観察の指示を出し続け放置したことについて、危機感のなさを強く感じます。

「口腔内に溜まる、吸引をしないといけないような多量の出血、凝血塊も引けたということで、これは窒息の原因になるため、相当のリスクがあったことになります」

「外科系の医師が診れば、止血のための処置を直ちに始める状況

との専門医の見解からわかるように、看護師が行っていた鼻出血への処置では不十分であり、もっと早い段階で医師が対応すべきだったのです。それに加えて、看護師は患者さんに対して行った治療の経緯や出血状態の評価を時系列で記載していたカルテを、後に何度も修正し、削除しています。病院側が対応に問題があったと認識していたのは明らかです。

「術後数日経って慢性的な経過を診ていた患者さんではありません。少なくとも何かあったら連絡をするように指示は必要です。」とのコメントもありました。
看護師、当直医ともに術後間もない患者さんに対して、当たり前に、医療従事者として普通の対応をしていれば起こらなかった、残念なケースだと思います。

産科医療ラボ