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日本の脳外科医療の闇【後編】「京都第一赤十字病院 脳神経外科学会が研修施設認定を停止」報道を見て思う

2024年05月20日 | コラム

2024年4月5日、NHKが報じた京都第一赤十字病院の研修施設としての認定停止のニュース。

最近では2022年に赤穂市民病院が日本脳神経外科学会から同じく専門医研修施設としての認定を停止される処分を受けています。

京都市にある京都第一赤十字病院の脳神経外科では、4年前、脳腫瘍の手術を受けた70代の女性が腫瘍ではない脳の組織を誤って摘出されるミス以外にも、不必要で禁忌であった腰椎穿刺が実施され20代の女性が死亡する事故など、10件以上の医療ミスを疑われる死亡事例があったと報道されています。

学会の理事長が交代したタイミングでの措置

脳外科学会の理事長がK大学のM医師から、T大学のS医師に代わったタイミングで脳神経外科学会が研修施設認定を停止したことも注目すべき点だと思います。

京都の方はよくご存知の京都第一赤十字病院は、脳神経外科の専門医になるための研修を行う施設に認定されていましたが、京都府立医大の脳神経外科と、前任の東北大学出身の元脳神経外科教授とともに京都第一日赤に赴任された先生方の間に様々な軋轢があったといわれています。

NHKの報道によれば、京都第一日赤で事故が多発していた状況を受けて、日本脳神経外科学会が病院に聞き取りをしたうえで理事会で審議した結果、「医療の安全管理体制など教育上の懸念事項がある」などとして3月31日付けで認定を停止した、とのこと。医療の安全管理体制について、「どのような懸念」があるのか、学会には是非情報の公開をしてほしいところです。

当事務所により、京都市の行政指導の内容などについて情報公開を求めたところ、真っ黒に黒塗りされた一覧表が開示され、61件の問題の可能性があるケースのうち、12件で死亡事例があったということも、判明しています。当初、京都市が問題があると認めたのはわずか「3件」でした。

脳外科学会も何人の方にどのような問題があり、脳神経外科で犠牲になったのか、明らかにしていません。まだまだ、医療ミスがあったことすら知らないまま、泣き寝入りを余儀なくされておられる方や、ご遺族がたくさんおられるでしょう。

具体的な問題点を公表すべき

報道によれば、脳神経外科学会が認定を停止することは異例の措置で「病院の管理体制が改善されるなどした段階で改めて審査する」らしい、ですが、何が問題だったのかを具体的に明らかにしなければ、病院の管理体制がどう改善されたのかもわかりません。脳外科学会が国民の信頼を得ようと今回の認定停止を行ったのなら、きちんと事実は公表してほしいところです。

学会の理事会で決められた処分ということですが、当然ながら、理事のメンバーには京都第一日赤に脳外科医を派遣していた京都府立医大の脳外科教授は含まれていません。

含まれていたら、今回の処分はできていなかったのか?

そのあたりも、教授同士の忖度ではないと国民に説明するためには、事実を公表する必要があるでしょう。理事のひとりには、同じ京都のK大学の脳外科教授は含まれていますが、自らの手術や後輩の手術に関する紛争を、複数を抱えておられる教授に、川向かいの脳外科教室を批判することは難しかったでしょう。

実際、K大学の複数の教授が、京都第一日赤の問題あるケースの一つについて、外部委員として関わられ(当方からすれば明らかにミスだと思うケースでも)、「仕方がなかった、ミスはない」という内容の報告書をまとめておられるという現実。

自らの教室の管理体制は棚に上げて、京都府立医大の派遣先だけを処分する、というような、研修施設認定を政治利用する側面があったのか、なかったのか。

私達一般市民には、わからない「闇」としか言いようがありません。

前述したK大学の某教授たちが関わった報告書の一部を紹介します。

禁忌といわれる処置で患者を死亡させたことが明らかなケースについて、研修医レベルでも禁忌といわれている処置を行ったのに「標準的治療の範囲内」と述べた上、

と、禁忌の処置をしたことで死亡したのに、もともとの病気のせいで死亡したかのように書かれています。十分治療ができた疾患だったのに「どうせ死んでいた」という結論になっているのです。

なぜ、こんないい加減な院内事故調査を行っている教授たちを、専門家である脳外科学会は処分しないのか?院内事故調査の報告書を公開しない限り、誰もミスを指摘できず、言いたい放題の院内事故調査もなくならないように思うのですが、皆さんはどう思われますか?

必要な補償を行い明日の医療につなげる

NHKの報道でコメントされておられた名古屋大学医学部附属病院の長尾能雅教授のような方はまだまだごく少数派です。

「専門学会が患者安全上の懸念を理由に施設認定を停止するのは非常に重大な判断だ。院内で脳神経外科の診療を点検するだけでなく、医療の安全性を全面的に見直すべき機会だ。こうした問題が起こると、チームや組織全体の構造的な問題が指摘されることが多く客観的な検証が必要だ」と話しておられた長尾先生が、京都第一日赤の院内事故調査報告書をご覧になったらなんとおっしゃるでしょうか。

日本の医療業界や保険会社は、本当に必要な方に必要な補償をすることは不可能なのでしょうか。

補償をした上で、明日の医療につなげることがなぜできないのでしょうか。今のところ、私たちのような患者側弁護士は、10年、20年後の医療のために、まだまだ頑張らなければならないようです。

 

医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

この記事を書いた⼈(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。
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