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C型肝炎は治る病気になったのに、見落とされているC型肝炎陽性者と肝臓がんのハイリスク患者

2024年01月10日 | コラム

C型肝炎は慢性肝炎のうち約70%を占めるといわれ、感染の自覚のない人、通院していない人を含めると国内に100万人以上の感染者がいると考えられています。
肝臓は「沈黙の臓器」ともいわれ、肝炎になっても自覚症状を感じにくく、感染に気づかない、または気づいていても治療を受けていない人が多くいるのが現状です。

C型肝炎は放置すると、高い確率で肝硬変、肝臓がんに進行することでも知られています。
治療をしていない人だけでなく、過去にC型肝炎の治療を受け、病院での継続的な経過観察を受けていない人が、後に進行した肝硬変、肝臓がんによって受診するケースが問題視されています。

ハイリスク患者が見落とされている現状や、病院に求められていることとは・・・
治療の機会を失ったことで医療紛争のきっかけにもなり得る問題点を解説します。

C型肝炎とは

肝炎ウイルスにはA・B・C・D・E型があり、このうち、C型肝炎ウイルス(HCV)に感染することで発症します。感染してもほとんど自覚症状はありません。
長期間放置すると高い確率で肝硬変、肝臓がんへと進行します。

どのようにして感染するのか?

C型肝炎ウイルスはHCV感染者の血液が体内に入ることで感染します。多くは1994年以前の輸血やフィブリノゲン製剤の投与、注射器の使いまわしにより感染したと考えられます。
現在は、他人の血液に直接触れることが無ければ日常生活で感染することはほとんどないと言われています。

検査方法

簡単な血液検査(HCV抗体検査)でわかります。HCV抗体検査で陽性となった場合は、血液中にC型肝炎ウイルスがいるかを調べる検査を受けます。

治療法 

  • インターフェロン治療
  • インターフェロンと飲み薬の併用
  • インターフェロンフリー治療

以前はインターフェロンとよばれる注射薬による治療が一般的でしたが、その効果は高いとは言えず、副作用や治療が長期間に及ぶなどデメリットが多くありました。

直接作用型抗ウイルス薬(DAA)

直接作用型抗ウイルス薬(DAA)と呼ばれる飲み薬によるインターフェロンフリー治療が普及し、高い効果が確認されています。
DAAは従来のインターフェロン治療を受けられなかった患者、効果が見られなかった患者も治療できるようになり、C型肝炎ウイルスを直接攻撃できる薬です。

C型肝炎は治らない病気から治る病気へ

DAAの登場により、難治性疾患として「20世紀の国民病」とも言われたC型肝炎は治る病気へと変わりました。
DAA治療を受け、ウイルス学的著効(SVR)※1を達成する患者が増加しています。※1ウイルス学的著効(SVR)とは、ウイルスが体内から排除され、血液検査の結果が陰性になることです。

今後は潜在する患者を見つけ出し、治療を受けられるよう啓発することの重要性が説かれています。

C型肝炎が治れば肝臓がんのリスクはなくなる?

肝臓がんの原因は50%がC型肝炎と言われています。ウイルス学的著効(SVR)により肝機能の悪化は抑制され、肝硬変や肝臓がんへの進行抑制に対するエビデンスも増えてきました。
しかし、C型肝炎が治った後も肝臓がんのリスクがなくなるわけではなく、画像検査による肝細胞癌(HCC)のスクリーニングを継続して受ける必要があります。

病院のフォローアップによって肝細胞癌(HCC)と診断されるケースも

関東地方の肝臓内科を有する中核病院の報告によると、自院で428例のC型肝炎に対してDAA治療を実施し、400例がウイルス学的著効(SVR)を得ました。そのうち44例で治療後の肝細胞癌(HCC)スクリーニングが継続されていなかったため、肝炎医療コーディネーターを通じてフォローアップを行いました。

肝炎医療コーディネーターによって呼び出し再診となった20例に対し、画像検査を行ったところ3例で肝細胞癌(HCC)が見つかりました。
肝細胞癌(HCC)が見つかった3例の患者はその後自院で治療し、完全寛解となりました。

この病院のように、DDA治療後の肝細胞癌(HCC)スクリーニングの重要性を認識し、継続的な通院が途切れてしまった患者を拾い上げるための独自のフォローアップがとても大切です。

引用文献:髙草木智史,井上 佳奈,高橋 智美,小曽根 隆,高木 均.C型肝炎ウイルス排除後の定期通院を中断した患者への受診勧奨の有用性 https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo/62/11/62_703/_pdf/-char/ja

肝臓がんのハイリスク患者が見落とされている

継続的な通院が中断された患者を放置している病院は少なくありません。そのため長期間、画像検査を受けることなく肝硬変、肝臓がんが進行した状態でみつかるケースが特に高齢者で多いのです。
該当する患者を洗い出すことが困難であるという問題もありますが、電子カルテにアラートを出すなど改善が望まれています。
病院の報告書では、「適切な啓発なくして肝癌死の克服は困難である」とも書かれています。

C型肝炎ウイルス検査の現状

冒頭で、C型肝炎の推定患者数は100万人以上といいましたが、その中には感染の自覚がない人、治療を受けていない人が含まれているともお伝えしました。
そのような人に対して、検査を受けること、治療を受けることを厚生労働省が中心となって啓発しています。

肝炎ウイルス検査の受検率

平成24年に厚生労働省のもとで実施された国民調査では、肝炎検査の受検率はB型肝炎57.4%、C型肝炎48.0%でした。その中でも自己申告によって検査を受けた人はB型・C型ともに17.6%と少なく、実は、受検者のうち、約6~7割が「非認識受検者」であったと報告されています。

「非認識受検者」とは、手術前の血液検査や妊婦健診などに肝炎ウイルス検査が含まれており、受検したことを認識していない人のことをいいます。
肝炎ウイルス検査を受けた人のうち「知らないうちに実は検査を受けていた」という人がほとんどだということです。

陽性結果を説明していない医師も・・・

受検率の調査と共に実施された医師向けのアンケートでは、手術前等に行われる肝炎ウイルス検査の結果説明について、驚きの回答結果がありました。

【肝炎ウイルス検査が陽性の場合】

・陽性結果を説明している・・・89%

陽性結果を説明していない・・・11%

【肝炎ウイルス検査が陰性の場合】

・陰性結果を説明している・・・34%

陰性結果を説明していない・・・66%

一部の医師は、検査結果が陽性であったにもかかわらず治療を勧めるどころか、結果を伝えてさえいないというのです。

病院には検査の実施、結果を説明する義務がある

今後医療紛争のきっかけになっていくのではと考えられる問題もあります。それは、病院の肝炎ウイルス検査結果の説明に関する義務についてです。

検査結果の説明実施が診療報酬規程に明記されました

厚生労働省は、先述の調査・アンケート報告を受け、一部の受検者に対して検査結果を正しく伝えられていない可能性があるとして、各都道府県に宛てて、肝炎ウイルス検査を実施した場合は検査結果を受検者に適切に説明を行うよう医療機関に依頼するようと通達を出しています。

そして、医療機関は肝炎ウイルス検査の結果について確実に説明を行い、受診につなげるよう取り組むと指針が示されています。

また、平成30年の診療報酬改定において、手術前医学管理料について、「本管理料に包括されている肝炎ウイルス関連検査を行った場合には、当該検査の結果が 陰性であった場合も含め、当該検査の結果について患者に適切な説明を行い、文書により提供すること。」と規定されました。(保医発0305第1号「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」より抜粋)

令和4年の診療報酬改定において、短期滞在手術等基本料についても同様の取り扱いが規定されています。

つまり、手術前などに肝炎ウイルス検査を実施した場合は結果が陰性であっても、病院は患者に結果の説明を行い、文書で検査結果を提供しなければならないということです。

病院が陽性の説明をしないまま、後にがんが見つかったら病院に責任は問える?

検査結果が陽性であったのに、病院がその説明を怠り、後に肝臓がんが見つかった・・・調べてみると実は過去に検査を受けていて陽性であったことが判明したというケースも起こり得ます。

患者からすれば、なぜその時教えてくれなかったのか、と当然病院に対して思うでしょう。

この場合、検査結果を適切に説明し、C型肝炎に対する治療を受けていれば、肝臓がんに至ることはなかったと病院に責任を問える可能性はあります。厚生労働省からの通達や診療報酬規程等に明記されている以上、病院には説明する義務があります。

治療の機会を失う患者をなくすために

「知って肝炎」活動を行っている肝臓専門医は、治る病気になった肝炎が治せないジレンマとの戦いだとおっしゃいます。今、日本全国で行われているほとんどの手術の際には、ほぼ間違いなくHIV(いわゆるエイズの原因ウイルス)や、B型肝炎、C型肝炎のウイルスの有無について血液検査を実施しているはずです。

その目的は、患者さんよりも、手術を行う外科医達や手術室看護師達への感染を予防するためです。本来の手術の目的とは直接関係のない「念のため検査する」情報であるため、B型、C型肝炎のウイルス陽性であることは、結果を伝えられることなく外科医達に忘れられてしまうという事が起こり得ます。しかし、患者さんは血液検査でC型肝炎ウイルスを持っている事実を知る機会を奪われてしまい、何年も、何十年もあとになってから肝臓の異常を指摘されてわかる、ということになるのです。

肝臓内科の専門家からすれば、治療の機会を失われ悔しい思いをすることになります。専門分化が進む医療の世界で、科をまたぐ情報共有の問題がここにもあります。
カルテのIT化、情報の一元化によって患者さんが肝臓がんで亡くならない将来を実現することも可能ではないか、と思います。

【参考文献】

 

 

医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

この記事を書いた⼈(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。
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