函館地方裁判所の判決について以前のコラムで紹介しました。
その後、患者さん側、医療機関側の双方から控訴されていたようですが、2026年3月17日に高等裁判所でも医療機関側のミスを認めたと報道がありました。
報道によると、経口避妊薬を服用して重度の障害を負ったのは、処方した渡島管内八雲町の町立八雲総合病院がピル長期内服中に血栓を予防するために必要な血圧測定などを怠ったミスがあったとし、女性(61)と夫が、町などに約2億7600万円の損害賠償を求めていました。控訴審判決が2026年3月17日、札幌高裁でありました。斎藤清文裁判長は病院に必要な検査をしなかった過失があったと認めた上で、町に約1億9400万円の支払いを命じた一審函館地裁判決を変更し、賠償額を約1億2500万円としたようです。
判決の詳細はわかりませんが、賠償額を減額したのは、介護費用などの評価の仕方に違いがあったのではないかと推測します。減額されたとはいえ、1億2500万円の支払いを命じているのは、医療機関側のミスを認め、ミスにより脳静脈洞血栓症を生じて重度の障害を生じたと結論付けたことに間違いないと思います。
以前のコラムでも紹介しましたが、薬の副作用が生じた場合に、医師や薬剤師が薬に添付されている「添付文書」に沿った投与を行わなかった時には、不適切な投与があったと推測される、「過失の推定」がはたらき、不適切な投与をしていた医師や薬剤師の方に、適切だったことの証明をしなければならない義務が生じます。
本来の決められた用法容量を守らなければならないための添付文書ですから、守らない使い方をした場合には、ルールを破った方に証明させるという、公平な判断が行われることになります。
今回の事故は、前の医者が投与しているから大丈夫だと判断して、39回の処方が検査もされないまま続けられていました。低用量ピルの服用は、日本ではまだそれほど行われていませんが、欧米では半数以上の女性が、一生のうちピルを使ったことがあるといわれています。ピルには重篤な副作用として脳静脈洞血栓など、全身の静脈で血栓が出来やすい性質があります。全ての患者さんに血栓が生じるわけではありませんが、特に肥満傾向のあるかたや、血圧が高い方、血液の凝固能が高い(血液検査)などがある場合には、血栓のリスクが高いといわれています。
今回の一番の問題点は、39回の投与で血栓のリスクを全く評価しなかったこと。おそらくは患者さんにもリスクについて十分話をしていなかったことも考えられます。
同じような事故は、若い20代の方でも起こります。当方が担当した近畿地方の事故では、ピル内服中の健康な20代の女性が突然の頭痛を発症して救急病院に行ったところ、脳静脈洞血栓を見落とされ、さらに脳がむくんでいるときには行ってはいけない腰椎穿刺という検査をされたことで、脳の重要な部分(脳幹)が損傷されて即死した事故がありました。さらに1年もしない間に、同じ県内の別の病院でもピル内服中の20代の女性の脳静脈洞血栓症をCTやMRIをしたのに見落とした事故が起こっています。
ピルが血栓のリスクであることは、医者であればごく基礎的な知識で、知らない人はいないと思うのですが・・・同じ県内で、1年間に同じ事故が起こり、それも当方に相談があった方だけで2人もいるのです。実はピル内服中に血栓を起こしても見落とされている患者さんは、もっともっとたくさんおられるのではないかと思います。原因不明の頭痛が起こって、突然脳出血で亡くなった場合には、必ず脳静脈洞血栓のことも念頭に置かなければなりません。
狭い地域の、同じような事故が、他の病院では全く生かされていないという現在の医療体制は、やはり何かおかしいと思います。
院内事故調査が行われても、その調査内容が公表されなければ、他の医師には伝わりません。将来の安全な医療のためには、生じてしまった事故を真摯に受け止め、建設的な検討が必要だと思います。




