麻酔中の事故に本人の責任は無い

麻酔中の事故はなくなりません。麻酔は、生きている人を死ぬ寸前の意識がない、痛みも感じない状態まで落として、手術が終われば再度生き返らせる作業です。そのため、麻酔中の事故は、死につながることが多いです。本人は、手術台の上に寝かされて眠くなるとその後は何をされても分かりません。本人の肩を叩いて呼び掛けます。「●●さん!」と呼びかけても反応がなくなれば、直ちに本人にかけられていた大きなバスタオルははがされ、下着を取られて、尿道カテーテルを入れられます。同時に、たっぷり酸素を吸わされて、のどの奥に管を入れられます。これらの流れが、麻酔導入です。

 この作業の途中で、正しく気管に管が入らず、食べ物が通る方の通路、つまり食道に管が入っていて気付かれないことがあります。本人は、自分で呼吸できない状態になっているので、食道挿管は直ちに低酸素を来します。通常は、挿管したチューブが食道に入っていないか、空気を入れてみて、肺の音を確認しますが、その確認が不十分であると気づかないままのこともあります。また、麻酔科や、麻酔を管理している看護師は、麻酔のモニターを観察していますので、低酸素になれば直ちにアラームが鳴ります。うるさいからといってアラームの音をならないように設定することがあり、低酸素状態になっていても気づかない状態が続くと、5-10分で患者は低酸素脳症で意識が戻らない状態になってしまいます。

 また、全身麻酔でなくても、腰椎麻酔(下半身の麻酔)であっても、事故はあります。背中から麻酔薬を入れられた患者さんは、その後、麻酔薬が切れるまで、足の先から腰のあたりまでだんだん感覚がなくなっていきます。通常は、冷たさや痛さを下半身の複数の箇所で確認しながら、どこまで麻酔が効いたのかを確認し、麻酔が上の方まで効きすぎていないことを確認します。しかし、麻酔の量が多すぎたり、頭が低い状態で長くおいたり、この冷たい、痛い、の確認をこまめに行わないと、麻酔薬が上の方まで効きすぎて、呼吸をするための筋肉(横隔膜)の高さより上まで達してしまうことで、息ができなくなることがあります。患者さんは、下半身が動かない状態で、だんだん息ができなくなるという恐怖状態にさらされます。腰椎麻酔は、麻酔の専門家である麻酔科がいない状況で、外科医や産婦人科医、整形外科医等によって行われることが多く、手術が始まって患者さんの様子を観察している人がいなくなると、観察がおろそかになり、気づいてもらえないことがあります。この時も、モニターは異常を示しているはずですが、モニターの異常値に気づかない状態になると、事故が起こります。

 麻酔中に、麻酔薬が少なくなり麻酔がさめてくるような事故もあります。患者さんは音だけが聞こえる状況の中で筋弛緩剤によって金縛りにあった状態で、痛みがあっても動くこともできない状況に置かれることになります。

 このように、麻酔中の事故は、患者さんにとって恐怖の事故になります。