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全身麻酔中に麻酔薬が不十分で術中覚醒(目が覚めて音が聞こえる)状態になったことに対して500万円以上の和解に至ったケース

医療過誤・医療ミス・問題解決事例

医療事故の事案概要

関西地方の総合病院で30代の患者様が良性疾患の全身麻酔手術を受けました。その手術中に、麻酔薬が少なくなり意識がある状態におかれたまま医師が気づかず、手術後にPTSD(Post Traumatic Stress Disorder : 心的外傷後ストレス障害)に悩まされることになった事案です。

受任に至る経緯

患者様は、良性疾患のための手術中に、金縛りのように手足が動かせないが音が聞こえる状態になり、気管挿管したままだったため生き埋めのような苦しさを味わったと訴えておられました。しかし、病院側との話し合いにおいて、病院の説明内容は患者様の意に沿うものではなく、カルテや麻酔時のデータ記録なども開示を求められました。病院側はミスを認めず補償に応じる意向も示さなかったため、当事務所に調査・交渉を依頼されることになりました。

受任後の対応

患者様がすでに開示を受けていたカルテ、麻酔時チャート記録などを検討し、相手方病院の過失の有無、現在生じているPTSD(Post Traumatic Stress Disorder : 心的外傷後ストレス障害)の経過についてお話を伺いました。過失や因果関係の検討では、麻酔科専門医とともに麻酔チャートを供覧し、複数の医師が同じ意見であることを確認しました。精査、検討後に、相手方病院に対し、相手方病院医師の過失により生じた患者様の損害を賠償するよう求める内容の書面を作成し、送付しました。

交渉のポイント

交渉のポイントとして当事務所が重視する点は、客観的資料である診療録の記載から、相手方にとって反論の余地がない点を精査し、過失や因果関係を検討することです。
本件では、手術前後の患者様の訴えや医師・看護師とのやり取りから事実経過を把握し、麻酔記録から術中覚醒の状態であったことが明らかになりました。
このように、医学的、法律的な検討を行うと、患者様が問題と考えられる点、気になられている点以外にも、損害賠償請求に際し重要性の高い問題点が判明することがあります。
 本件交渉に際しても、患者様が問題と考えられている点、医学的、法律的な検討の結果判明した問題点等を全て検討したうえで、患者様にとって最も有利な主張を構成しました。
同時に、PTSD(Post Traumatic Stress Disorder : 心的外傷後ストレス障害)であることを証明するために、患者様にはPTSDの診断・治療を専門とする精神科医を受診していただき、詳細な検査の報告内容を診断書として作成していただきました。

PTSD(Post Traumatic Stress Disorder : 心的外傷後ストレス障害)とは

ストレスが非常に強い心的な衝撃を与える場合には、その体験が過ぎ去った後も体験が記憶に残り、精神的な影響を与え続けることがあり、このようにしてもたらされた精神的な後遺症を特に心的なトラウマ(外傷)と呼び、それによる精神的な変調をトラウマ反 応、外傷後ストレス反応(Post Traumatic Stress Reaction : PTSR)と呼びます。PTSRの多くは一過性に経過し、症状の程度も軽いものが多いといわれていますが、一部には慢性化し、その後の社会生活に少なからぬ苦痛を残すことがあります。それらのトラウマによって生じる疾患を心的外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder : PTSD)といいます。
PTSDの診断は、下記のような基準をもとに診断されます。B以下は症状の内容です。

  1. 暴露(外傷体験の内容です。自然災害、交通事故、戦争体験等の様々なものがありますが、術中覚醒も含まれます)
  2. 侵入症状
  3. 回避行動
  4. 認知・気分の陰性変化
  5. 覚醒度と反応性の著しい変化(睡眠障害も含む)
  6. 1か月以上持続
  7. 社会生活への影響
  8. その他の原因の除外

術中覚醒とは

アメリカ映画「Awake」など、術中覚醒記憶を扱った映画や小説があるように、何の手術でも渦中に巻き込まれる可能性があります。術中覚醒のリスクが高いのは、①女性、②若年者、③緊急手術、④特定の手術(心臓手術、帝王切開)、⑤静脈麻酔、⑥術中の麻薬の使用、⑦術中の筋弛緩薬の使用などが知られています。術中覚醒記憶の発生率は約0.2%といわれています。麻酔科医が40年間働いた場合,平均では20例以上の術中覚醒記憶を起こす計算にもなります。特に、術中覚醒では高率にPTSDのような精神的後遺症を残すことも知られています。
現在では、手術中に脳波をモニターするBIS(ビス)モニターを装着して、患者様の意識状態をモニターし、同時に循環動態(バイタルサイン)も観察しながら適切に麻酔薬の調節をすることが必要と考えられており、適切に対応することで術中覚醒は予防することができます。
そのため、術中にBISモニターを観察していなかったことで覚醒状態におかれるというのは、医療ミスの可能性が高くなるのです。例えば、下記のようなケースが麻酔科医の管理ミスになる可能性があります。

  1. 麻酔薬ロクロニウムの作用発現はパンクロニウムと同じくらいの時間がかかると誤解し、チオペンタールよりも早くロクロニウムを投与した(意識消失の前に筋弛緩状態となった)。
  2. 麻酔薬チオペンタールの投与量を間違えた。
  3. 誤ってチオペンタールの急速静注時に輸液ボトル側に注入器が付かなかった。

吸入麻酔薬に特異的なものとして、

  1. 気化器内の吸入麻酔薬を使い切ったことに気が付かなかった。
  2. 吸入麻酔薬を追加した後ダイアルを元通りにセットすることを忘れた。
  3. 血圧低下時に吸入麻酔薬をオフにし、そのままにした。

TIVA(全静脈麻酔法)に特異的なもの

  1. 鎮静薬プロポフォールをつないでいる輸液ルートのボトルが空になっていることに気が付かなかった。
  2. シリンジポンプへの体重の入力を誤った。
  3. 鎮静薬プロポフォールの交換時にシリンジポンプのスイッチ操作を誤った。
  4. 静脈ルートの輸液が、圧迫などにより静注されない状態となっていた。

交渉の結果

交渉に先立ち、どのような過失が、どのような経緯で術中覚醒に至らせたのかを詳細に調査・検討していたため、当事務所から初回通知書を送った後、比較的早い段階で、相手方病院が過失を認める方向で交渉が進みました。損害賠償額については、PTSDに該当するかどうかについて双方の主張が対立する点が多く、交渉が長期化しましたが、当事務所で類似の術中覚醒事案に対し500~800万円程度の裁判上の和解があったことや他の裁判例等を指摘し、話し合いによる解決であること等考慮し、早期解決のため、患者様と話し合って示談金額を決めることになりました。

富永弁護士のコメント

術中覚醒は、麻酔科医やその他の医療従事者が考えているよりも、生じている頻度が高いといわれており、術後、「目が覚めていた」「音が聞こえていた」という患者様の訴えに耳を傾けることが重要だといわれています。このケースでは、術後に患者様から「目が覚めて辛かった」との話があったにもかかわらず、その訴えを真摯に受け止めてもらえなかった、という思いが募り、当事務所に来所されました。適切な術後対応があれば、紛争化することはなかった可能性も高いと感じます。また、実際に、術後に担当医や麻酔科医が真摯に患者様の訴えを聞き、早期に対応すれば、PTSD症状の発症や持続時間は軽減するともいわれているところです。一方、紛争化すると病院から術中覚醒はなかったというような主張をされ、患者様はより一層精神的に傷つかれることにもなります。交渉においては、客観的な証拠が重要になりますが、患者様自身の記憶や訴えは診療記録に記載されますし、手術中の脳波モニター、麻酔薬や筋弛緩薬の使用状況を詳細に検討することで、患者様の訴えを客観的に証明することができ、早期解決に至れたケースでした。

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医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

この記事を書いた⼈(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。
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