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C型肝炎に対する抗ウイルス療法が長期間行われず死亡した事例で3000万円以上の裁判上の和解が成立したケース

医療過誤・医療ミス・問題解決事例

医療過誤の事案概要

北陸地方の総合病院に、C型肝炎に罹患していることを含めて紹介され、入通院をしていた患者さんに対し、担当医師らが約6年間にわたりC型肝炎に対する抗ウイルス療法を全く行わなかった結果、患者様が死亡してしまったという事案です。

受任に至る経緯

亡くなられたお父様のことについて、お嬢様がWeb相談に来られました。お話を伺うとお父様がC型肝炎で亡くなった後に、院長と事務局長が自宅まで謝罪に来たということでしたので、話し合いによって解決ができるのではないかと考えましたが、ご遺族としては約6年も通院していたのになぜ亡くなったのかの理由を知りたい、というご要望もあり、まずはカルテなどの診療録を検討し、亡くなった原因の調査から始めることにしました。

受任後の対応

病院は協力的であり、カルテ開示によって外来・入院通院中の約7年分のカルテの提出を受け検討を始めました。C型肝硬変から肝不全になって死亡したこと、ご家族は亡くなる前から肝移植の方法によって助かる方法がないか等を主治医に相談していたことがわかりました。しかし、6年分のカルテを遡ってもC型肝炎の治療は全く行われていませんでした。通院をし始めた時に持参した紹介状にはC型肝炎ウイルス陽性で「C型肝硬変」であることも記載されていたのに、担当した医師はC型肝炎について全く知らず何の治療も検査も行われていませんでした。6年もC型肝炎を無治療で放置した結果、肝不全でなくなったことが判明しました。同時に、6年間のC型肝炎治療のガイドラインも全て入手し適切な治療が行われていれば完治できた病気であることも明らかになりました。その内容をもとに病院側に賠償を求める通知書を送り、話し合いによって解決を求めましたが、相手方は死亡した原因は認めるが、6年間も無治療だったということはないと一部を認めず、金額で折り合いがつかず示談交渉は決裂しました。北陸地方の相手方弁護士は医師会の事件をたくさん扱っている、7割程度なら支払うなどと豪語して、合理的な理由もなく低い金額を提示してきたので、ご遺族が立腹され、裁判を行うことになりました。

裁判手続きの経緯

ご遺族には世の中の人々にも地域の中堅病院がC型肝炎を全く治療していなかったという事実を知ってほしいという強い要望があったため、訴訟提起の際に連絡のあったマスコミの方々に情報提供し、新聞・テレビ報道も行われました。訴訟が始まると、裁判官からは話し合いの余地がないのか確認されたので、示談交渉の際に、相手方代理人が不適切な行動をしたために話し合いがまとまらなかった経緯を説明しました。相手方代理人は、訴訟が始まってから、急に事実を認めない、「争う」姿勢を取り始めたので、原告側としても徹底的に反論を行い、C型肝炎治療の大家に協力医として意見書を作成してもらう予定になったところで、急に相手方から話し合いで解決したいと申し出があり、裁判官からも裁判上の和解を検討してほしいと打診がありました。遺族としては、お父様がなくなってからの病院の態度の急変に強い不信感があり、和解をすることについてかなり悩まれた様子でした。裁判上の和解をするメリット・デメリットをお伝えし、裁判所には提案金額の詳細な内訳を明らかにしてもらうことでご遺族も納得され、最終的には裁判上の和解を選択されました。

C型慢性肝炎とは

C型慢性肝炎とは、肝炎を起こすウイルス(C型肝炎ウイルス:hepatitis C virus:HCV)の感染により、6か月以上にわたって肝臓の炎症が続き、細胞が壊れて肝臓の働きが悪くなる病気です。初期にはほとんど症状はありませんが、放置すると、長い経過のうちに肝硬変や肝がんに進行する可能性があるといわれています。

C型肝硬変とは

C型肝硬変は、ウイルスによって壊されたウイルスによって壊された肝臓の細胞が線維成分に置き換わり、肝臓が固くなった状態です。肝硬変のうち、正常な部分によって肝機能がある程度保たれている状態を代償性肝硬変といい、さらに病気が進み、肝機能が低下した状態を非代償性肝硬変と言います。
代償期は症状が乏しいですがが、非代償期になると、肝機能低下や門脈圧亢進に伴って、全身倦怠感、食欲不振、腹水、浮腫、脾腫、皮膚掻痒感などの症状が生じてきます。肝硬変が進行するに従って、肝細胞がん、肝不全、食道・胃静脈瘤などの合併症を引き起こす可能性もあります。

C型肝炎の治療法は劇的に進歩していること

C型肝炎の治療法は、特に、C型肝炎ウイルスを体の中から排除して感染からの治癒を目指す抗ウイルス療法があります。従来は、インターフェロンという薬剤を使った治療が中心で、著効率(ウイルス排除成功率)はウイルスのタイプによって約1割~5・6割といわれていました。インターフェロンは点滴治療で、うつ等の副作用があり患者さんにとっては辛い治療でした。しかし、2011年からは、ウイルスに直接作用して増殖を抑える経口、内服の抗ウイルス薬(DAA)が次々に登場して著効率が約9割まで向上し、2014年にはインターフェロンなしでDAAによる飲み薬だけの画期的な治療「インターフェロンフリー」治療が始まったことで、副作用が少なく、100%に近い著効率が得られることとなりました。その後、これまで効果が低かったウイルスのタイプ(ゲノタイプ)にも有効な治療薬や、新規治療薬が次々と認可され、第2世代DAAによるC型慢性肝炎・代償性肝硬変の著効率は、いずれの治療法も95%以上と治る病気になりました。2019年には、すでに症状が出始めた非代償性肝硬変でも治療ができる抗ウイルス治療が登場し、あらゆるステージのC型肝炎が治療できるようになってきています。

富永弁護士のコメント

このケースは6年という長期間C型肝炎治療が全く行われなかったという信じられないものでした。6年間の間にC型肝炎に対する抗ウイルス薬の発展は劇的で完治する病気と言われていたにも関わらず、です。主治医がC型肝炎の専門家に紹介さえしてくれればお父様は今もお元気だったはずです。内科医師も専門分化があり、循環器内科、消化器内科、糖尿病内科、腎臓内科等、それぞれの専門家は高度な治療を行えるようになっています。今回の主治医は、糖尿病や高血圧の治療はしていましたが、C型肝炎に関する一般人でもインターネットで調べられる程度の医学知識さえ知りませんでした。命を預かる医師としての姿勢を疑います。

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医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

この記事を書いた⼈(プロフィール)

富永愛法律事務所
医師・弁護士 富永 愛(大阪弁護士会所属)

弁護士事務所に勤務後、国立大学医学部を卒業。
外科医としての経験を活かし、医事紛争で弱い立場にある患者様やご遺族のために、医療専門の法律事務所を設立。
医療と法律の架け橋になれればと思っています。
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